これからの防災のかたち
-環境・防災・機能の融合-

ピックアップ

富山県広域消防防災センター・消防学校・四季防災館

設計コンセプト

本施設は、県民の安全・安心な暮らしの確保と、多様化・大規模化する災害に対応できる人の育成、防災知識の普及啓発を図る目的として、「防災拠点施設」、「消防学校」、「学習施設」の3つの機能を融合した「富山県広域消防防災センター」として整備されました。2011年3月11日に発生し未曾有の被害をもたらした東日本大震災は、私たちに多くの教訓を与えました。被災自治体においては行政機能が維持されたか否かによって、災害後の対応から復旧に取り掛かる初動体制に大きな差が生じるといった実態も明らかになり、行政機能を保ち続けること、すなわち「防災拠点施設」としての備えが、重要であることが再認識されました。また、復興に向けて、スピード感を持つ「地方行政力」、自助・共助による「地域力」がいかに重要かとの問題も明らかになりました。これからの防災施設整備に求められるのは、従来のような機能性や安全性だけに捉われた施設ではなく、瞬時に初動体制が取れる機能維持や地域連携機能を備えた施設、起こり得る大災害に対し実践的且つ高度な訓練ができる施設、そして全ての人々に対して防災教育を展開できる開かれた施設などです。こうした施設は、人々の活動を促し、自助・共助により地域力を高めることへと繋がって行きます。

受賞

【2012】第44回中部建築賞(一般部門) 入選
【2013】第44回富山県建築賞(作品部門) 入選

建物概要

発注者 富山県
所在地 富山県富山市
用 途 防災センター / 消防学校 / 宿泊施設 / 学習施設
構造・階数 鉄筋コンクリート造 / 鉄骨鉄筋コンクリート造 / 鉄骨造・13F/B1F
延床面積 12,730 ㎡
竣工年 2011年
備 考 撮影:(株)エスエス北陸
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施設について

東立面図
施設は高さ45mの主訓練塔や、水深10m可動床付の水難救助訓練施設、実火による訓練施設、瓦礫救助訓練施設など全国トップクラスの訓練機能を有します。加えて災害時の指揮命令拠点機能、食料・生活必需品の備蓄機能、救援物資の輸送・集積拠点機能を備えた、県民の安心・安全を守る防災拠点施設となっています。 東日本大震災が発生した時は、既に設計は完了し工事の半ばでありましたが、設計段階での緻密なインプットにより設計内容を見直しすることも無く、2011年4月に開館となりました。 施設は手前から、四季防災館(学習施設)、消防学校、宿泊施設、屋内訓練施設、備蓄倉庫、実火災訓練施設、主訓練塔、水難救助訓練施設、補助訓練棟、街区訓練場の順に並び、分棟化された各施設を屋外のピロティ空間「アクティブモール」により繋ぎ一体的な構成としています。
配置計画は、不整形な敷地の奥行きを逆に利用し、そこに必要ボリュームを上手く嵌め込み、施設正面側の壁面線を揃えることで、200m×100mの屋外スペースを確保しました。エントランス空間には施設の顔となる四季防災館と消防学校を配し、アクティブモールにより一体的に繋いでいます。オープンに設えたエントランス空間や芝生スタンドからは施設全体が見渡せ、訪れる人々に訓練や活動の様子を伝え映します。  かたちづくりのテーマは4つ、①スピード感のある形態、②開かれた施設、③防災の視認化、④繋ぐ・補完・可変です。ファサードの構成要素としては、消防隊のスピード感ある動きをランダムな壁面構成により表現しました。また、日常生活の設えと防災の備え、さらに、環境要素を融合し、これらの機能を視認化したデザインとしています。
配置図

四季防災館・消防学校

体験型の四季防災館は、自主防災組織や子どもから高齢者まで、広く県民に開かれた防災学習の場です。四季ごとの災害をテーマに地震や暴風雨、流水、火災、雪崩などの本物の体験から、消防の歴史、富山の自然災害、高齢者が自分自身を守るための訓練などもできます。
消防学校は、光庭を囲む内部の回遊動線「インナーループ」を中心に、管理室、各教室、防災諸室、ワークテラスなどが並びます。諸室の構成は、開き・繋ぎ・可変し・補完することで、学校機能から一般開放時、さらには災害時に至るまで、最小限の設えでありながら最大限の機能性を発揮できるフレキシブルな空間となっています。

防災拠点施設としての役割を担う本施設は、耐震化、インフラの2ルート化、停電時の機能性確保など、従来の整備に加え、飲料できる地下式耐震性貯水槽100tの設置、主要室の床免震化、災害対策活動室への災害用情報コンセントの設置、防災デッキによる機能性の向上、災害時の使用方法を当初から想定するなど、瞬時の初動体制がとれる機能を備えています。
四季防災館
環境配慮としては地窓と高窓、風の塔によるドラフト換気、アクティブモールや庇、縦ルーバーによる日射制御、光庭とワークテラスによる自然採光、反射率の高い色彩採用などシステムに頼らないパッシブな取り組みを多く採用しています。訓練で使用する水は雨水やプール排水を優先的に利用し、放水訓練で放水した水も回収し再利用できるように配慮しています。

宿泊施設・屋内訓練施設・実火災訓練施設

宿泊施設は消防学校と一体となって日常時・災害時共に機能連携がとれる構成となっています。宿泊室は4人部屋が15室、女性隊員のための専用室、ユーティリティースペースも完備しました。また、宿泊室には可動ブースを導入し、集団空間から個別空間へと可変させることであらゆる集団単位に柔軟な変化をみせます。
屋内訓練施設は80m×25mの柱無空間とし、放水訓練、渡過訓練、ヘリコプター降下訓練など、室内でも実践的な訓練が行えます。災害時にはこの大きなスペースを利用して備蓄倉庫からの物資搬出入、支援物資等集積スペースとして活用できます。
実火災訓練施設は22.5m×22.5m×高さ15mの吹き抜け空間を持ち、移動式の模擬家屋や油タンクなどを使い、実火による実践的な消火救助訓練が行えます。さらに、隣接する主訓練塔と一体となった複合的な訓練が展開できます。
屋内訓練施設
実火災訓練施設

主訓練棟・水難救助訓練棟・補助訓練棟

主訓練塔は地下1階、地上13階、高さ45mの実践的且つ高度な訓練機能を内包した多機能訓練タワーです。地下室での水没訓練、実火による消火救助訓練、濃煙熱気発生装置による消火救助訓練、地上30m部分での渡過訓練など様々な訓練が行えます。
水難救助訓練施設は、直径6m×水深10mの電動可動床、気泡による模擬濁水発生装置を持つステンレスプールを備えます。水中スピーカー、監視カメラ、水中照明により監視室からの遠隔監視も可能となっています。
補助訓練棟A・B・C棟は全国技術大会仕様を満たす本格的な訓練施設として整備しました。A棟は構造フレームを使い諸室を組み込み、C棟は地上32mまで立ち上げ第二の訓練タワーとして機能を付加しています。

各訓練施設に導入された排煙処理装置、泡消火排水処理設備、濃煙熱気発生設備などはオリジナルのシステム構築により大幅なコストダウンを図り、ローコスト・ハイグレードを実現しています。 屋外施設としては、街区訓練場、水防訓練施設、瓦礫救助訓練施設、放水訓練場、ヘリポートなどがあり、訓練設備が災害時の機能へと繋がる配慮を行っています。
水難救助訓練棟
主訓練棟