合併のシンボルとしての「木の庁舎」

ピックアップ

真庭市役所 本庁舎

設計コンセプト

2006年に日本の総人口が減少に転じ、社会は今後ますます縮小していくことが予想されるなかで、市町村合併を動因とする庁舎建設が各地で行われています。この状況下における真に市民に喜ばれ、親しまれる庁舎づくりの重要な視点のひとつは、空間ではなく、時間に価値を置くことであると考えています。私たちが望むことを疑い、市民の声なき声に傾聴し、望まれるかたちを目指しています。分業化された組織が収斂していき、市民参加が自然と行われる、矩形で作り込まない、フロア構成や、工夫し改善していくことを前提とした地産地消木質バイオマス熱源システムなどがそれにあたります。さらに庁舎建物が、地元産業の活性化の一助となり、新しい産業をインキュベートする舞台となることも期待しています。

受賞

【2012】 第4回 おかやまUDたてものコンテスト(最優秀賞)

建物概要

発注者 真庭市
所在地 岡山県真庭市
用 途 庁舎
構造・階数 鉄筋コンクリート造 / 鉄骨造・4F
延床面積 7,850 ㎡
竣工年 2011年
備 考 撮影:時空アート
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地産地消の空調方式

設備計画のポイントは、バイオマスタウン真庭を象徴する地産地消の空調方式の採用です。メインとなる熱源に真庭産チップによるチップボイラー、補助ボイラーには、これも真庭産ペレットのペレットボイラーを設置し、化石燃料を一切使用しない真庭市ならではの方式としました。また、ロビーゾーンをはじめ、執務ゾーン、議場などには居住域のみをやさしくコントロールする床吹き出し空調システムを採用し、快適性と省エネの両立を図っています。さらに、市民の方々の寛ぎの空間でもある 1階の市民ロビーは、気流を極力抑えた床面輻射式冷暖房を採用しました。その他、雨水利用や太陽光発電など地域の自然エネルギーを活用し、「地産地消の環境共生庁舎」を目指しています。
真庭市は山林面積が市全域の8割を占め、古くから林業が盛んです。市としてもバイオマス政策課を中心に木質バイオマスの普及と産業振興に努めています。従来は森に放置していた間伐材を森林組合により木質チップとして再生産を行ったり、国内最大級の木質ペレット生産をおこなっている民間工場が市内で操業していたりします。このように、真庭市は国内で最も木質バイオマス燃料が安価かつ豊富に供給できる地域です。この好条件を最大限に活用するために今回の真庭市庁舎の空調熱源システムは地域産の木材を使ったチップ、ペレットをエネルギー源とした「オールバイオマス熱源システム」を採用しました。
チップボイラーとペレットボイラー
バイオマス熱源 システムフロー
これは化石燃料エネルギーをまったく使わないシステムであり、チップサイロ・チップボイラー・ペレットサイロ・ペレットボイラー・熱交換器・吸収式冷凍機・冷却塔で構成されています。より安価で供給量が豊富なチップ (メインボイラーに利用)・やや割高であるが安定した熱供給が可能なペレット(バックアップボイラーに利用)という木質バイオマスそれぞれの特性を考慮し、
常に最適なエネルギー利用状態となるようにシステムを中央制御にて自動コントロールしています。下のグラフは平成23年4月~平成24年3月の各バイオマス燃料消費実績量及び、各エネルギー源によるCO2排出量※です。(※ペレット・チップは電気CO2原単位 0.728kg-CO2/kWh、COP=2として縮減分を表しています。)
年間消費量トータルとしてチップが約123.7t、ペレットが約82.3t、トータル約206tでありました。これはチップの発熱量を3.49kW/㎏、ペレットの発熱量を4.56kW/㎏として換算するとトータルで約807.1MWh/年のエネルギーが得られたことになります。木質バイオマスはカーボンゼロ換算であるので、結果的にC O 2を年間約2 9 4 t( 約35.2%)縮減したことになります。

利用者への配慮

庁舎は、間口方向の柱を均等に配置した長方形の整形平面とし、窓口カウンターを一文字に配置することで、わかりやく、使いやすい来庁者ゾーンを構成すると同時に、レイアウト変更や将来の行政改革などに対する柔軟性も確保しています。また、主たるトイレは、各階の同じ場所に同一レイアウトで設置し、障害者の方をはじめ、すべての人の利便性に配慮しています。エレベーターは、かご内寸法1,850×2,000の26人乗りを採用しました。スト レッチャーに対応し、また盲導犬や車椅子利用の方にとっての気兼ねのない広さに配慮しています。
南北面の窓は、荒天時や夜間の開放も考慮し、シンプルな網戸付き引き違い窓とし、気軽に開閉できる窓とすることで、日 常の利用を促進し、旭川を渡る風を庁内に呼び込み、空調負荷を低減しています。また、庁舎内の壁仕上げや家具類、照明器具にいたるまで、真庭産木材を活用し、杜の都の庁舎としての木質感豊かなインテリアとしました。庁舎正面に、来庁者の方々の車寄せやコミュニティバス、タクシーの停留など多目的な利用に対応する「真庭回廊」を設けました。緩やかに弧を描く回廊の屋根は、真庭産ヒノキの組柱9本で支えられています。これは、合併した9カ町村がひとつとなって、輝く未来を築いていくことを顕したものです。
全景