市民の居場所となる開かれた庁舎

ピックアップ

西予市庁舎

設計コンセプト

愛媛県南部に位置する西予市は、平成16年4月に旧5町の合併により誕生しました。514.79km² に及ぶ市域は海抜0mから1,400mまでの標高差があり、多様性に富んだ気候・文化風土を持った、人口約4万2千人のまちです。市庁舎は、合併に合わせて老朽化・狭隘化が進む旧庁舎に代わる、市の新たな拠点施設として計画されました。市民や職員の利便性向上を図り、災害に強い防災拠点施設として整備する一方、市民と共に永く使い続けられる庁舎を目指しました。「宇和檜」などの豊富な森林資源を活用し、エントランスの市民ロビーや議場など内部空間を中心に西予市産木材をふんだんに用いた「木の庁舎」とすることにより、「西予市らしい」庁舎を創り出しています。また、西予市では「バイオマスタウン構想」に基づく施策を行っており、そのモデルプランとして、市内で製造した木質ペレットを燃料とした空調システムを庁舎の一部に採用し、市内産木材の「循環」を実現しています。

受賞

【2011】 平成23年照明普及賞優秀施設賞
【2012】 第25回日経ニューオフィス賞四国ニューオフィス推進賞(四国経済産業局長賞)
【2013】 第12回「建築と社会」賞 入賞
【2016】 第15回公共建築賞優秀賞(四国地区)

建物概要

発注者 西予市
所在地 愛媛県西予市
用 途 庁舎
構造・階数 鉄骨鉄筋コンクリート造 / 鉄骨造・6F
延床面積 7,257 ㎡
竣工年 2011年
備 考 撮影:時空アート
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市民のための庁舎建設事業

建設地は穏やかな田園風景が広がる宇和盆地に位置する、JR予讃線卯之町駅前の旧市庁舎(合併前の宇和町役場)跡地です。周辺には重要伝統的建造物群保存地区に指定された江戸中期からの伝統的なまちなみが残り、今後観光客の増加が見込まれます。しかし、広く西予市を見渡すと山間部・海岸部を中心に過疎化や高齢化が進み、限界集落への対策が急務であることも現実であります。市全域を支援する拠点であり、今後さらに減少すると見込まれる人口や職員数への対応も含め、新しい市庁舎がどうあるべきかということが設計における最大のテーマでした。西予市にとって庁舎の建替事業は一建設工事にとどまらず、経済活動・まちづくりという観点から非常に重要な意味を持つ。3年半を費やした設計・建設期間を通じ、職員や市民の声を聞きながら、西予市民にとってよりよい庁舎を目指しました。
エントランスホール
全景
市民の「居場所」を創る
設計にあたり、エントランスに市民の「居場所」となるパブリックスペースの設置を提案し、エントランスホールと一体となった「市民ロビー」やそこから連続する半屋外の「交流プラザ」といった市民のための空間が実現しました。内装や家具に西予市産木材を用い、木に包まれた居心地の良い場所を創り出している。大きくまちに開か れたこれらの空間は、市民を迎え入れる入口であるとともに、市民活動の場としてギャラリーなどに利用されており、市民にとって自分たちの庁舎であると実感してもらえる場所となっています。
永く使い続けられる庁舎
新庁舎は可能な限り柔軟性をもつ計画としました。両サイドコアにより執務エリアを広く確保し、共用部を含め全面フリーアクセスフロアを採用しました。窓のない議場の外壁は乾式パネルとし、将来的な開口部の設置を容易にしています。配置計画では老朽化した敷地内建物の建替や敷地の拡張も考慮しており、各棟をつなぐコリドールが将来増築建物に展開していくことを想定しています。また、維持管理費の低減を目指しメンテナンス性に配慮しました。日射遮蔽のための水平庇は風雨による外壁の汚れを抑制し、メンテナンスデッキの機能も併せ持ちます。清掃は基本的に職員が行うため、ガラス清掃を考慮して執務エリアは原則引違い窓とし、各階便所には掃除用具入と流しを男女別に設けています。
実効性の高い環境配慮技術の採用
環境配慮については市民の関心が最も高いポイントのひとつです。考えられる環境配慮技術の採否については十分に検討・協議を行い、コストやエネルギー効率などについて、実効性の高いもののみ採用しました。例えば太陽光発電パネルは霧の多い盆地の気候には有効性が低いため採用していません。また、旧庁舎では人通りの少ない共用部は常に消灯されていたことを踏まえ、サインや掲示板などを照らす常時点灯器具を中心にLED照明を採用しています。

西予市らしさの追求

市民検討委員会で、「都会に建つようなビルはいらない」と意見をいただきました。我々は「西予市らしい」庁舎を目指し、「華美でないこと・居心地のいいこと・わかりやすいこと」を念頭にデザインを行いました。 来庁者には高齢者が多いため、窓口サインは色と番号による分かりやすい計画とし、同時に内装仕上はサイ ンの色を際立たせるシンプルな色彩としています。 市域の75%を山林が占める西予市の豊富な森林資源を活用するため、内装材を中心に西予市産木材を使用しました。地元産材の使用は地域振興に寄与するだけでなく、西予の木につつまれた居心地のいい空間を提供し、「西予市らしい」庁舎を実現しています。西予市産木材を壁・天井の仕上材として使用する場合は、原則としてルーバー形状とし、面として構成しつつ、材の奥行を感じさせることにより、木のボリュームが感じ取れるよう意図しました。また、床・壁・天井の仕上材だけでなく、サッシュの方立、家具、カウンター天板、照明器具などにも用いています。
窓口サイン
エントランスホール