クライアントや市民との対話を深めて形づくる
2002年8月、設計者選定プロポーザルが行われた。再開発事業は採算性重視で保留床の確保が最優先、ゆとりは生まれにくい。それでも可能な交流スペースを確保すべく提案したのが「緑のステップルーフ」とそれを活かす吹抜け空間「光のガレリア」です。床面積の発生しな い“屋根”と“吹抜け”を利用する仕組みです。「実現には十分な検討が必要だが意欲的な提案」と評価され、当社が設計者に選定されました。市との協議ではプロポーザル案にこだわらない検討を前提としていましたが、段状緑化のアイディアは何となくみんないいと思っていたのか“種”になっていて、施設構成をいくつも検討しながら 「緑」と「機能」を関係づけていく作業を続けていたように思います。ワークショップで議論しながら案を練り上げ、段状テラスと吹抜けを軸に交流スペースが展開する設計案がまとまりました。設計から施設オープンまで6年のプロジェクトでした。
全7回にも及ぶ住民自由参加型ワークショップを開催
「夢を語ろう!みんなで考えよう!」をテーマに自由参加型のワークショップが7回開催され、どんな施設にしたいか、熱い議論が交わされました。 考えて、話し合い、成果をまとめるプロセス。「自分たちの」施設であるという気持ちと連帯感が育っていく。第4回「計画案の中身を具体的に考えよう」の回では、区役所、図書館、体育館、といった施設機能ごとに色分けした粘土の模型づくりにチャレンジしました。さまざまなアイディアを盛り込んだソーニング計画案が提示され、設計案に活かされています。
複合施設に求められる分かりやすさの追求
大規模かつ多用途が入居する複合施設において、いかに利用者がストレスなくスムーズに目的地へ到達できるかが計画の重要なポイントと考えました。ワークショップにおいても「分かりやすさ」への意見が多く寄せられました。そこで私たちが提案したのが、全フロアを貫く眺めのよい吹抜けエントランス空間=「光のガレリア」です。これにより施設全体の構成が掌握しやすくなります。その吹抜け空間にメインの縦動線を集約し、吹抜けに面して各階施設の入口を設けることで、行く先を常に見渡しながら最短距離でアクセスできる計画としました。「光のガレリア」のガラスファサードからは「緑のステップルーフ」や駅前広場、愛宕の山並みなどダイナミックな眺望が展開し、風景を楽しみながら目的施設へ向かうことができるとともに、自分の位置の把握しやすさにも寄与しています。平面的に規模が大きいため、建物が地域を分断しないよう東西南北にエントランスを設け、吹抜け空間へと導く通り抜け動線を確保しています。
区民の交流を誘発する場をつくる
本プロジェクトは、特に区民の利用頻度が高い公共機能がまとめられた区の中核施設です。「にぎわい施設」実現のため、そのポテンシャルを「交流の誘発」につなげることができないかに着目しました。そこで提案したのが、「緑のステップルーフ」と「光のガレリア」とをつなぎ、内外から自由に行き交うことができる立体回遊動線を構築、この動線上に開かれた交流スポットを点在させるという仕掛けです。区民ロビーでは様々なイベントが開催され、屋上テラスでは家族連れが緑に親しみ、ベビーカーの親子が弁当を広げます。緑を望むラウンジでは体育館利用後のグループが寛ぎ、図書館で本を借りた若者が読書にふける・・・。竣工から4年、様々な風景が映し出され、地域に開かれたにぎわい施設として街に馴染みつつあります。
京都議定書が採択された都市の建築として
プロジェクトに着手する5年前の1997年、この地で世界的な地球温暖化に対する取り組み「京都議定書」が採択されました。環境への意識がさらに高まる中、わたしたちは京都市の公共施設として高水準の「環境共生型施設」の実現を目指しました。太陽光発電、屋上緑化・壁面緑化、雨水・井水利用、クールピットによる地中熱利用など “自然エネルギーを活用”するとともに、ガスコージェネレーション排熱の空調利用や床吹出しによる居住域空調、氷・中温水蓄熱利用など、高効率なシステムによる“省エネルギー化”に取り組んでいます。屋上緑化や壁面緑化をはじめ、吹抜け上部のトップライト一体型ソーラーパネルや、井水利用を具象化した井水オブジェなど“見えるエコ”を随所に採用し、区民の環境意識を高める工夫を凝らしています。
歴史・文化溢れるまちで建築とアートの融合をはかる
映画の街太秦、風情あふれる嵯峨野、世界遺産の竜安寺や仁和寺など、右京区は深い歴史と文化に包まれています。また右京区の玄関口に立地するこの施設は観光拠点としての機能も有しています。これらの背景から、右京区の歴史・文化をアートというかたちで表現し、建築と融合させることを考えました。その1つが区民ロビーの壁面に組み込まれたガラスレリーフです。右京区の名所・旧蹟38か所をエッチングガラスと焼き物により帯状に描写し、背後に内蔵されたLED照明により幻想的に浮かびあがるしくみです。観光客には右京の息吹を感じてもらい、区民には右京の再発見と誇りを生み出す一助となることを期待しています。