一続きのストーリーを構成
各ステップごとのシーン
計画にあたり、駅からホールに至るまでのアプローチの各ステップごとにシーンを設定し、一続きのストーリーを構成することを意図しています。
STEP1: 発見
近づくにつれ、木々の間に見え隠れする特徴的なファサード
STEP2: 期待
曲面壁に沿って階段をのぼりながら非日常への期待を高める
STEP3: 昂揚
吹抜空間の中で次に始まる出来事に心を昂揚させる
STEP4: 感動
日常から切り離され、奏でられる音楽に包まれる
ホール計画 -まちにホールを挿入する-
ホールのインテリアは、市が掲げる「文化と歴史の香り漂う水と緑のまち」から森の「緑」、川の「流れ」、そこに降り注ぐ「光」をモチーフとしました。垂直方向の化粧リブは森の木立を表現し、その間の璧の凹凸によってつ くられる陰影は木々を渡る風や水の流れ・奏でられる音楽をイメージしています。間接照明による上からの光は木々の間から降り注ぐ木漏れ陽を意図したものです。 ホールは音楽生演奏を主体とし、その他さまざまな目的に市民が利用することができます。約350席のホールとしては大きめの舞台を備えており、コンサートモードで2管編成のオーケストラが演奏できる広さを確保しています。また豊かな響きを得るために天井を高く設定し、一人当たりの気積は約13.2m³/席を確保しました。演劇モードでは、可動式の側面・天井反射板を格納しプロセニアムを幕で構成されています。
舞台機構やスクリーン・ビデオプロジ工クター、残響可変幕などによって、演劇・舞踏・和物等の公演だけでなく映写会や講演会などさまざまな催しを行うことができます。プロが行う本格的な催しに対応できる設備を備える一方、約350席という規模は市民が気軽に文化活動に利用できる使い勝手のよい大きさだろうと思います。2階席構成とすることで最後部の客席から舞台先端までの距離を小さくし、舞台と客席との親密性が高いホール空間 が得られています。
寝屋川市駅から街区への導入部にまちかど広場が計画されて、その中央部は築山状に土を盛って、しだれ桜がシンボルツリーとして植えられます。地域交流センターが市民公募によって〝AruKas″と名付けられたのは、市の木である桜(SAKURA)に因んでのことです。
ものづくりの精度
建物に求められる要件はさまざまであり、設計という行為はそれをひとつひとつ紐解き組み直し「解」としてつくりあげていく行為でもあります。建築設計において「解」はひとつではなく、そこに関わる人たちの組み合わせによって幾通りもあります。建物のデザインの課程には、多くの可能性の中からひとつの答えを意志をもって選ぶ段階と、その「解」を覚悟をもって純化し強化していく段階があります。選んだ「解」をより強固なものとしていく課程で必要とされるのは「ものづくりの精度」であろうと思います。多くの人のさまざまな知恵と技術がよりあつまって、ひとつのアイディアであったものがカタチとしてできあがる。それぞれの段階における「ものづくりの精度」が、そのカタチにより強い個性を与える。そういう意味において、このプロジェクトは恵まれていました。設計の段階において精度を上げることに集中することが許され、現場においてはさまざまな技術を持った人たちによってさらにその精度を高められる環境が与えられました。 約350席というホールの規模は市民が気軽に文化活動に利用できる使い勝手のよい大きさであり、再開発という制度でつくられた施設としてはけして大きくはありません。
コンパクトな建物ですが、その中に精一杯の機能を詰め込みながらシンプルなカタチとして実現させるために、外部・内部のどの部分をとっても高い精度を求められる気の抜けないものづくりの現場となりました。エントランスに浮かぶ曲面の壁はそれぞれの面が異なる半径の球体の一部であり、そこにランダムにあく三角形の窓はそれぞれのつく位置によって微妙に角度が違い、ひとつとして同じ形はありません。四周を囲う特殊面状の打放しコンクリートの壁は、耐震スリットの目地を消そうとするアイディアから始まったものですが、必要な箇所に目地をとりながらも全体を均一に見せるためにランダムに化粧目地を織り交ぜ、その型枠は繰り返しがほとんどない複雑な割付けとなりました。ホール内の化粧リブも1本1本の形状は異なり、その間の壁の凹凸のずれが陰影に流れを生みだし、壁全体として木立を渡る風や水の流れ・奏でられる音楽を表現しています。
複雑な部分の集合によりひとつのシンプルなカタチをつくり出すために、ひとつひとつ丁寧に積み上げていきます。その目に見えない苦労が「ものづくりの精度」として建物の個性をより確実なものにし、存在としての力強さを与えてくれるのではないでしょうか。