浮かぶCLTの天蓋による木造研究所

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京都府茶業研究所

設計コンセプト

茶の生産振興、高品質化などの研究開発を行う研究所です。コミュニケーションを促進し、イノベイティブな研究環境とすることを目論み、中庭を中心としたワンフロアラボとしています。屋根面を中庭側に向かって傾斜させることで、求心性のある空間を創出しながら、主たる屋根構造である CLT 材を外部から視認できる浮かぶ天蓋のファサード構成としています。CLT と府内産製材をいかに融合させるかが、本計画のポイントの1つです。量塊感と板材としての繊細さを合わせ持つ CLT の長所を活かすため、集成材の梁と同面とし、平滑な天井面となる架構形式(落し込み工法)を採用しています。この天蓋を支える下部フレームは、全て府内で加工・建方が可能な、流通製材による軸組構法としています。

受賞

【2019】 第22回木材活用コンクール (木材活用賞)
【2019】 ウッドデザイン賞(建築・空間分野入賞)

建物概要

発注者 京都府茶業研究所
所在地 京都府宇治市
用 途 研究所
構造・階数 木造・1F
延床面積 954㎡
竣工年 2019年
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お茶と木材の振興を目指して

         建方完了時に開催した構造見学会

京都府では、森の恵みを生かした食や伝統文化、産業など、森に包まれた暮らし方を『森の京都』スタイルとして発信することにより、交流産業の振興、森の魅力向上による林業の付加価値向上の実現に向け取組を推進しています。本施設でも施工中や竣工後に地元の木材関連企業や団体、設計・施工会社、府内外の自治体等を対象に地域産木材の活用をテーマに見学会を開催し、京都府産木材、地域産木材の利用拡大を推進する取り組みを行っています。
また、当施設で毎年開催される『八十八夜茶摘みの集い』では府内外をはじめ、観光で訪日している外国人の方々など、数多くの来訪者で賑わいを見せます。お茶体験を目的とした来訪者も、木に包まれた特徴的な空間体験によって木造の魅力を再発見するような施設となることを目指しています。

『エンジニアリングウッド』と『流通製材』の活用

CLTと府内産製材をいかに融合させるかが、本計画のポイントの1つです。盤状のCLTの屋根構面を流通製材による繊細なフレームで支えるというシンプルな構成としています。これは、府内加工が可能な範囲と府外加工が必要な範囲をシンプルに切り分けることで、加工の煩雑さを回避しつつ、可能な限り府内の木材加工業者に参画頂けるような架構計画を意図しています。
柱・梁架構は構造耐力上主要な柱及び梁にKTS材(京都木材規格材)を採用するため、在来軸組構法とし、耐力壁の構造方法は建築基準法で示される例示仕様によるものとしています。府内における流通製材を使用するにあたり、供給可能な部材寸法(柱:120×120、梁:120×240、含水比20%以下、背割りなし)で構造スパンを決定しています。柱梁仕口については、府内で加工可能なディテールとするとともに、木の現し部は仕口の金物が露出しないディテールとしています。 
CLTを水平構面として構造利用するため、CLT落し込みディテールの載荷実験を行い、銘建工業株式会社が既に取得していた性能認証 (以下、CLT乗せ掛け)と同等の性能を有することを確認しています。CLT乗せ掛けでは、長期鉛直荷重をCLTと梁の支圧で梁に伝達し、地震時面内せん断力を面内せん断用接合具(木木ビス)により梁を介して伝達しますが、今回採用したCLT落し込みでは、長期鉛直荷重、地震時面内せん断力共に、枠梁に設けたせん断ダボ凸、CLTに設けたせん断ダボ凹により伝達します。