まちのシンボルとして地域になじむ配置計画と外観デザイン
メインアプローチは周辺道路や歩車動線を考慮し、現状と同じ敷地北側としました。新校舎は建替手順や児童の学習・生活環境、近隣への日当たりに配慮し、敷地南側に配置しました。東西を長手方向とすることで、東西方向に走る敷地南側の主要幹線道路など、遠景からの視認性もよく、校舎がまちのシンボルになるとともに、敷地正面からグラウンドや校舎内の様子がひと目でわかり、子どもたちの活き活きとした姿がまちに映し出されるよう計画しています。
外観デザインとして、屋根は戸建て住宅が建ち並ぶ周辺環境に馴染む勾配屋根とし、外壁は手の届く1階部分を魚津市産の杉板下見張り、2階以上の部分を金属板葺きとし、身近に木の温もりを感じながらメンテナンスのしやすさにも配慮しました。層毎に建物周囲をぐるりと回る小庇も、ボリューム感を抑えながら外壁の雨だれ防止にも寄与しています。
漁師町魚津の街並みの色彩をモチーフにした落ち着いた色味の外壁
落ち着いた教室環境と展開しやすいゾーニング
木製の引き戸を開閉し多彩な学習・生活の場をつくりだせる普通教室
校舎はコンパクトでありながら、日照・採光・通風などの良好な環境を確保しやすい、南向きのH型プランとしました。普通教室ゾーンは南A棟に全室を南向き配置し、1学年2クラスのまとまりを大切にしたクラスター形式とすることで、通過動線をなくし、落ち着きのある学習/生活環境を形成しています。普通教室とワークスペースの間にある木製引戸は、スペースの拡張や遮音対策、暖房効率の向上に合わせて容易に開け閉めできるよう設えています。
特別教室ゾーンは各フロアの普通教室からアプローチしやすい、北棟2階に配置しました。動線の要となる校舎中央にはメディアセンターを配置し、休み時間にもふらっと立ち寄れるなど、普段から本に親しみやすい環境をつくっています。体と心のケアゾーンは職員室と連携のとりやすい北棟1階に配置し、保健室・通級指導室・特別支援室を集約することで連携運営しやすいよう配慮しました。管理ゾーンは来客アプローチに対しての視認性、グラウンドへのアクセスのしやすさに配慮し、北棟1階西側に配置しています。学童保育ゾーンは管理する管轄が異なるため、西棟1階に配置し、学校と切り離して運営できるよう配慮しています。
木の温もりをしっかり残した防耐火計画
平成27年6月の建築基準法第21条の改正をふまえ、特別教室及び管理棟と普通教室棟とを、延焼を防止する壁等(90分耐火構造)で床面積3,000㎡ごとに区画することで、それぞれ準耐火建築物としています。また、同27条の改正をふまえ、天井の不燃化や雁木・小庇(防火上有効に設けられたひさし等)により一定の上階延焼防止措置を講じることで、木造3階建て校舎を1時間準耐火建築物とすることができました。
木の温もりに包まれた木の学び舎らしさを実現しながら、火災時の安全性を確保できる手法として、「燃え代型」と「被覆型」をハイブリットした防耐火計画を行っています。独立柱や最上階の小屋組など、子どもたちが手に触れ目に触れるような部分は積極的に燃え代型とし、木を現しにしています。一方で、間仕切壁などは元々防火上主要な間仕切りとして準耐火構造以上の性能が求められ、石膏ボードによる被覆型とすることが多くなりますが、腰壁には魚津市産材の杉板を張ったり、開口部や家具を木質化することで、防耐火上安全な環境をつくりながらも、木の温もりをしっかり残した学習・生活環境を実現しています。各種設備機器は直付けを中心にすることで、防耐火上の開口部を極力なくすように細部まで配慮しています。
無理のない構造計画によって工期とコストを抑える
木造3階建て校舎のプロトタイプを目指すため、既存の技術と生産システムの中で可能な限りできる構造計画としました。架構形式は在来軸組工法を基本とし(南B棟の短辺方向のみラーメン架構)、現しとなる構造躯体の燃え代設計部分には意匠性にも配慮し、燃え代寸法が少なくなる集成材を用いています(製材:60mm、集成材:45mm)。計画地は多雪地域であるため短期地震時の大きな積雪荷重の考慮が必要となります。また、主要教室のスパンが7.28mであり、木造としては比較的大きなスパンであるため、柱・梁等は荷重の大きさに合わせた束ね柱・束ね梁としています。使用する構造木は、地域産材で調達可能な樹種・区分・寸法に注意を払うことで構造用製材または中断面集成材での設計とし、コストダウンを図っています。柱・梁の仕口は在来プレカットによる加工が可能な形状とし、加工手間を減らし、工期の短縮を図りました。また、極力木造住宅用の流通金物を用いることで経済的な設計を心掛けました。
地域一丸となって実現した木材調達と構造計画との連携
星の杜小では約1,100㎥もの地域材を構造材として使用することができました。設計初期段階から、川上から川下に至るなるべく多くの関係者を一堂に会した「木材調達検討会」を開催し、建築のどこまでの範囲を地域材でつくるかといった目標設定、建築に使える木材の量や質の把握、木材を建築用材化するための製造体制の把握、無理しすぎない調達の仕組みやスケジュールの設定など、できること・できないこと・チャレンジすることを初期段階で的確に把握することを大切にしました。特に、構造設計者も含めざっくばらんに皆で議論を重ねることで、「地域材で学校をつくること」が各々自分事として捉えられるようになり、より能動的な木材活用につながったように思います。
星の杜小で使用した構造材の97%は魚津市産材となっており、その内55%が構造用製材です。なるべく多くの製材を使用することで材料コストを抑え、地域の製造体制の関与を増やすことを心掛けました。柱は120角から150角をベースとし、可能な限り束ね柱とし、木が現しになる燃え代型の部分は中断面集成材を利用しました。梁は幅120をベースとして、梁せい270までを構造用製材とし、それ以上を中断面集成材利用としました。地域産材で調達可能な樹種・区分・寸法に注意を払った構造計画とすることは、コストを抑えながら円滑な木材調達を行う上で欠かせません。
木造でもあきらめない音環境づくり
多層階の木造建築の場合、上階から下階への音の伝播や振動が問題になることが多く、ほとんどの場合、木造建築だから多少のことは我慢するといったことで済まされることが散見されています。発注者からも木造校舎の欠点としてあげられることが多く、見過ごせない課題となっています。一般的には軽量コンクリートなどの重量系の床をつくることで遮音性能を高めることになりますが、当然構造的な負担も大きくなります。星の杜小では、地域材をなるべく多く使うため、構造的な負担のかからない軽量系の床で遮音性能を高める方法を模索しました。
騒音減となる教室を静けさが必要な教室の直上や隣に配置しないような平面計画とした上で、一つ目は天井材を躯体から吊らず、鋼製の天井下地を防振ゴムを介して柱から支持することで、重量衝撃音を軽減しました。二つ目は乾式二重床とすることで軽量衝撃音を軽減しました。さらに配慮が必要な部分には床仕上げ材の下に防振シートを挟むといった補助的な方法もとりました。これらの手法を組み合わせることで、木造校舎でありながら、床衝撃音遮断性能の実測値、LL-60(軽量衝撃音)及びLL-55(重量衝撃音)といった豊かな音環境を実現することができました。
木造校舎への愛着を育む木育カリキュラムづくり
校舎が竣工してからどう使いこなしていけるかを第一に考えました。「木で遊ぼう・木に親しもう・木を活かそう」というコンセプトのもと、木造校舎をつくる建設プロセスや校舎そのものを通して、利用者である子どもたちが地域の木について自ら気づき考え、木造校舎だからこそできることを大学研究者や学校の先生方と模索しました。低学年でも学べる教材として、富山の自生種や校内に生える木の葉をモチーフにした54種類の衝突防止マークを校舎内で探したり、開発した木の葉カルタや校内で見つけた落ち葉で木の特徴を調べるなど、遊びながら木を身近な存在として理解するための学習ツールを開発しました。小さな子どもたちが様々な樹木の名前や特徴を口にし、色んな形の落ち葉を照らし合わせ、生き生きと木に親しむ姿は見ていてとても微笑ましかったです。
校舎を大切に使う気持ちの醸成をはかる木の環境づくりはできないだろうか。フローリングのデザインをしてみたり、木材調達で出た端材を使って木のデザインパネルをつくってみたり、統合前の3校のグラウンドの土を材料にして土壁をつくってみたり、様々なかたちで子どもたちには自らの環境に直接手を加える活動を行ってもらいました。中でも、継続性の高い木の環境づくりとして注目したのが「壁の塗装」です。外壁に木を使おうとした場合、軒を深くするなど雨風にさらされにくい環境を提案したとしても、維持管理のわずらわしさから泣く泣くあきらめざる得ないことがよくあります。星の杜小では、庇下の1階部分の杉下見板張りの外壁を5つにエリア分けし、学校のカリキュラムの中で5年かけて塗装を繰り返すことで、無理なく楽しくメンテナンスする仕組みをつくりました。つくって終わりではなく、メンテナンスを通して校舎への愛着や木でつくる建築文化を知るきっかけになることを期待したいと思います。