木造庁舎における機能性・安全性・柔軟性の確保
庁舎建築ではワークスタイルの変化や機構改革に伴うオフィスレイアウトの変更、将来的な用途変更への対応など、社会状況に追従する柔軟性が求められます。
木造庁舎においてもこれらの性能を十分確保できる構造形式として、「木造+RC造のハイブリッド構造(免震構造)」と「木+RCの合成梁」による12mのロングスパン架構を採用し、機能性・安全性・柔軟性を兼ね備えた木造庁舎を実現しました。
木架構現しの室内空間
木架構現しの意匠とするため、オープンフロアの執務室は床滲み出しによる居住域空調を採用し、空調ルートと電気の配線ルートは基本的に二重床内を利用する計画としています。居住域空調による快適性の向上、床下配線によるメンテナンス性の向上に加え、吊り天井をなくすことで地震時の天井落下リスクの軽減化を図りました。また開口部には上昇式ロールスクリーンを採用し、直達日射を拡散して間接光のみを効果的に取り込む計画としています。照明は既製品のLED導光板照明をベースに木質化を図り、上下配光により木架構を含めた室内全体を明るく照らす計画としました。
開放的な木造空間の創出
庁舎の構成が一目で分かる5層吹抜け空間(エコボイド)と桁行方向に梁型の出ない「門型の木架構」を組合せることで、見通しがよく開放的な木造空間を実現しています。
庁舎全体の視認性の向上に加え、天井まで開放された各階の窓面やエコボイド上部のトップライト+ハイサイドライトにより、効果的に自然採光・自然通風が行える快適な木造空間の創出を目指しました。
人と環境に優しく快適な木造庁舎
中間期はエコボイドの煙突効果と建屋上部に流れる卓越風を利用した自然換気が行える計画としています。また空調時には、執務室の空調された空気が吹抜け部に流れ出てしまうのを防ぐため、天井の木ルーバーの間に設けた層流ファンと吹抜けのガラス手摺の足元に設けた床吹出しスリットにより、エコボイド廻りに緩やかな気流(エアバリア)を生み出し、空調された空気を各階で緩やかに滞留させる計画としました。自然エネルギーの活用と省エネルギー技術を適切に組み合わせることで、人と環境に優しく快適な木造庁舎を目指しました。
図4:自然換気時の風速分布 図5:敷地周辺の風の流れ
図6:空調時のロビー廻りの温度分布 写真7:ガラス手摺一体型 床吹出しスリット
適材適所の地域産材利用
新庁舎本体は2時間耐火の耐火木構造部材とRCスラブとの組み合わせによる木+RCの合成梁や、吹抜け部分の耐火スクリーンによる防火区画形成など、最新の木造技術の活用により5階建て耐火木造を実現しています。また新庁舎の顔となる平屋建てのエントランス棟は一般製材を組合せた組柱や重ね梁、地域でとれるシイノキを用いたフローリング、地域の土を用いた左官仕上げで構成するなど、地域の素材・技術のみで施工可能な計画としました。最新の技術から地域の技術までを適材適所に組合せることで、合理的かつ地域に根差した木造建築を目指しました。
長門の文化・技術とのコラボレーション
地域産木材の活用により長門の「木の文化」を体現することに加え、長門に根付く多様な歴史・文化を体感できる空間を「新庁舎の顔づくり計画」と称し、市民広場とエントランス棟廻りを一体的に設える計画としました。計画にあたっては、地域の職人やメーカー、作家の方々との協働により、地域の素材や技術を用いた表現について共に考え、この地ならではのものへと昇華させていきました。また将来を担う若い世代にも庁舎づくりの一部を実際に体感して頂けるよう、見学会や施工ワークショップ(WS)を開催しました。地元の左官職人の指導のもと、長門市らしさを表現した版築ブロックを市民広場の舗装の一部としてちりばめるなど、随所に長門市の文化を感じられるような庁舎の顔づくりを目指しました。
写真15,16:版築ブロックの製作の様子 長門市らしさを様々な色で表現をして
製作されたブロックが市民広場の舗装の一部として埋め込まれた
木架構が浮かぶ外観構成
5階建ての新庁舎棟の木構造部分は耐久性・対候性を考慮して屋内での利用にとどめ、開口部越しに木架構が視認できる構成としました。また市民広場と一体的に設えたエントランス棟は深い軒庇により、木架構・木天井が屋内外に展開する構成としており、木に包まれた庁舎が訪れる人々を温かく迎え入れる計画としています。