土岐フォーラムを囲む開かれた庁舎

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土岐市庁舎

設計コンセプト

本施設は、老朽化した旧庁舎の建て替え計画です。新庁舎の正面には、祝祭空間、防災広場、駐車場として機能する市民広場、「土岐フォーラム」を設けました。東に既存文化施設、中央に行政ゾーン、西に独立性を高めた議会ゾーンを配置することで、全ての機能が土岐フォーラムに面する構成となり、市民、行政、議会が一体に開かれた庁舎を体現します。なお、土岐フォーラムを計画した場所は、もともと旧庁舎があり、旧庁舎を運用しながら、仮設庁舎をつくることなく、順次建て替えを行う手法により実施されました。
新庁舎を計画するにあたり、旧庁舎が抱える問題を解決するだけでなく、人口減少、少子高齢化を見据え、今後の土岐市のまちづくりの先導的な役割を果たし、未来へと受け継がれていくべき永続性のある庁舎を目指しました。

建物概要

発注者 土岐市
所在地 岐阜県土岐市
用 途 庁舎
構造・階数 鉄筋コンクリート造一部鉄骨造・3F
延床面積 10,468㎡
竣工年 2020年
備 考 延床面積に既設建物は含まず
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低層3階建ての甍屋根の庁舎

岐阜県土岐市は、日本有数の焼き物の街です。その歴史は古く1300有余年、現在も美濃焼が基盤産業となり、周辺地域も含めた一大窯業圏をつくりあげています。土岐の市街地は、丘陵地に囲まれ、土岐川に沿った下街道とともに発展してきました。敷地周辺は、東西に土岐川が流れ、丘陵地の緑に抱かれた切妻の甍屋根など、のどかで伸びやかな風景が広がっています。景観の重要な要素は、街道筋の甍屋根がつくる軒の陰影と背後に山並みが連なっていることです。新庁舎は、東西に流れる景観軸に沿うように配置し、高さを低層3階建てに抑え、背後の山並みの稜線を切らないボリュームとしました。外観は、庇やバルコニーによる伸びやかな水平ラインと甍屋根の深い軒がつくる陰影のある構成とし、地場でつくられた美濃焼タイル、風をつかむ木製フィンが表情をつくりだしています。
甍の屋根並み
    
 
甍屋根がつくる奥行の深い陰影

既存文化施設を活かした交流庁舎

新庁舎は、既にある文化施設をフル活用できるように、屋根のある回廊と渡り廊下でつなぎ、相互利用できる形態としました。文化施設は、日常市民が利用できるロビー機能が不足していたこともあり、2施設の結節点に市民ゾーンを設け、文化施設のロビー機能を補完し、新たな価値を創出しました。市民ゾーンには、市民協働できる多目的スペースやオープンな市民会議室を併設し、時間外や休日にも対応できる設えとしました。市民ロビー・多目的スペースは、土岐フォーラムともつながり、内外の活動を助長します。既存施設を庁舎の一部として活用することは、将来の人口減少を見据えた庁舎機能のコンパクト化に寄与しています。
多目的スペース廻り
  
市民ロビー廻り
オープンな市民会議室

庁舎が担うべき役割が時代とともに変わっていくことを柔軟に受け止める

執務ゾーンとロビー空間は、奥行15.4m(最大16.8m)の無柱空間とし、市民や職員の動きが一目でわかるひとつながりのプランとしました。また、ロビーに面して、打合せコーナーや動く情報ファニチャーを設け、市民と職員の交流や協働を促しています。窓口カウンターは、木質ユニット化し、将来の人口減少や行政サービスの多様化による職員単位や執務スペースの変化に追従する可変するカウンターとして整備しました。
執務スペースの背後には、執務を効率化する業務サポートゾーンを配置しました。具体的な機能は、打合せ・作業スペース、書庫・クローク、職員が昼食をとれる休憩スペース、部長室などであり、執務、行為、ONとOFFが短い動線で補完できます。効率化という言葉は、ネガティブなイメージを想起させることもありますが、余力を生み出し、働き方を変え、土岐市のコア・コンピタンスを醸成させることへとつながっています。執務スペースと業務サポートゾーンの間に設けた2重木製格子戸を可変させることで、視線やプライバシー、採光や通風をコントロールでき、多様な使い方を可能としました。
視線を緩やかに遮りつつも採光・通風を確保した2重木製格子戸
による業務サポートゾーンと時代の変化に対応できるフレキシブルな執務廻り

平土間の多目的利用が可能な開かれた議場

議場は、平土間形式で理事者席、議長席、演台を移動・収納できるようにし、多目的利用できるつくりとしました。議長席の背面パネルも取り外し可能であり、全てを設置すると舞台バックと舞台袖が生まれるつくりです。これまでに、議場を使って姉妹都市提携40周年式典や市民によるミニコンサートが開催されるなど多目的に活用されています。
平土間で多目的利用を想定した開かれた議場
    
理事者席を収納した市民によるミニコンサートの様子

地域の英知を集結した地産地創の庁舎

新庁舎建設にあたり、美濃焼のまち土岐市ならではの焼き物技術を集結したタイルや県産木材、タイルカーペットの染色加工、衛生陶器、LED照明などといった地域にゆかりのある資源を使い、地域の方々とともに長年培われた地場技術を駆使しながらつくり上げました。
出来上がった後も、庁舎見学案内ツアーを開催し、建物のどこにどんな地域の技術が使われているかを市民に伝え、関心と愛着をもってもらうことにつながっています。
匠マップ 地域の英知・技術を使い、地域の資源でつくる地産地創の庁舎づくりをリーフレットとしてPR

設計市民ワークショップから開庁時のオープニングイベント、さらにその後の市民活動へ

新庁舎づくりのプロセスとして、設計段階では、設計市民ワークショップを開催し、市民と職員がともに庁舎や街の将来像を考えました。
開庁後の現在も、設計市民ワークショップを機に、市民によるまちづくりワークショップなどが継続し、自発的な市民活動が続いています。真に新庁舎づくりを契機にものづくりからまちづくりへとつながった成果となっています。
設計市民ワークショップ
新庁舎を使ったまちづくりワークショップ
市民自ら企画し、運営を行ったグランドオープニングイベント
イベント時の土岐フォーラム