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特定医療法人 帰巖会 みえ病院

設計コンセプト

病院と、介護老人保健施設が共存する医療福祉施設の建替です。「帰巖会みえ病院」は大分県南部の豊後大野市三重町に位置します。人口約2万人のこの町は雄大に流れる大野川や、緑豊かな美しい自然の景観が広がっています。敷地は眺望に恵まれた丘陵地の裾野にあり、幹線道路に近接しアクセスに便利な場所でです。入口から主たる目的の場所を見渡せるよう「わかりやすさ」「誘導しやすさ」を徹底すると同時に空間の連続性を感じられるよう配慮しています。互いの雰囲気が感じられながらプライバシーを保てる関係性を形成しています。生活空間には屋上の庭園や中庭によって草木と身近に接することのできる場を設けました。各フロアから連続した屋外リハや語らいの場は誰もが利用できるよう開放されています。新たな科目、救急の受入や手術部門が強化され、地域に向けてさらに開かれた医療を提供できるよう、充実した機能を備えて生まれ変わりました。

建物概要

発注者 特定医療法人 帰巖会
所在地 大分県豊後大野市
用 途 病院 / 介護老人保健施設ほか
構造・階数 鉄筋コンクリート造・4F
延床面積 7,655 ㎡
竣工年 2011年
備 考 撮影:西日本写房
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プロジェクトの背景

医療から保健、福祉に至るまで永年地域に貢献してきた「旧岡本病院」と、院内に併設されていた介護老人保健施設「泉の里」の環境改善に伴う建替として計画されました。回復リハビリテーション病床を含む一般病床70床と、ショートステイを含む介護老人保健施設58床で構成されています。外来においては従来からの診療科に加え、新たに人工透析や泌尿器科、整形外科などの診療を開始しています。さらに入院患者さんや入所者の方、外来患者さんはもとよりスタッフを含めた施設の利用者全ての方に対するアメニティと利便性の向上が図られました。
南側正面 夕景

地域に親しまれ心の休まる医療と介護の場の創出

自然とふれあえる生活
病室やデイルームなど生活の場には採光のみならず、緑豊かな景観を享受できる充分な窓を設けるとともに、植栽を施した屋上庭園や中庭によって草木と身近に接することの出来る生活空間を構成しました。リハビリテーション室の屋上に計画した庭園は病棟内リハビリ室と連続しており、屋外リハや語らいの場として誰もが利用できます。また、3階の食堂やレクリエーションスペースにもそれぞれ雰囲気の異なる中庭や散策庭園を隣接させ、テラスや植栽との連続性を重視した計画としています。
機能性建材の採用
床には簡易メンテナンス性と高いクッション性を兼ね備えた長尺シートを採用し、転倒時のリスク回避やスタッフの足への負担軽減、歩行騒音の軽減に配慮しています。壁面の大部分はアンモニアに対する消臭性能と防汚性を有する壁紙で覆っています。ベース照明としてLEDを全面的に採用するなど様々な機能性建材を活用して、維持費低減やメンテナンス性にも十分配慮した計画としています。
素材による空間デザイン
内装や家具は「素材の質感」を重視し、プリント系の木目柄などの使用を控えました。この手法により、地域の中核病院としてのグレード感が保てるものと考えました。建物の外部と内部の仕上げ、色彩計画においてはレンガ素材や天然木など視覚に優しく肌触りもよい素朴な要素を随所に取入れ、モノトーンでまとめた空間の中に素材本来の色や植栽の緑が引き立つよう計画しています。
屋上庭園と病棟南側外観

施設構成

アプローチ
大規模な車寄せ庇を設け、車椅子用送迎車が重複しても対応できる乗降スペースを確保しています。建物へのアクセスに利用される歩道は、ブリック舗装と多種多様な植栽で構成しています。駐車場と車寄せを構成している庇は、安価な「吊り折板構造」を採用することで大幅にローコスト化を実現しています。

エントランス
エントランスホールは前庭との連続性を維持しながら、縦方向に開放感を確保した空間としています。正面には豊後大野の地形をモチーフとしたリブウォールを抽象的に造作しました。この吹抜空間と2階の各病棟デイルームが空間的な連続性を感じられるよう、フレームレスの透明合わせガラスによって仕切っています。さらに冬期の冷え込み対策として床吹出し空調に加え、LEDアッパー照明を仕込んだ特注サーキュレーターファン4基を天井に設置しています。
エントランスホール
外来待合

外来
受付の位置から待合、診察室、処置室、放射線、生理検査、トイレなど主たる目的の場所を見渡せる計画とし「わかりやすさ」「誘導しやすさ」を徹底しています。 待合の空間はヴォールト天井と間接照明によって柔らかな雰囲気を演出しています。天然木や病院のシンボルカラーであるティールグリーンが映えるようモノトーンを主体とした色彩計画としています。また家具設計や選定においても機能性とデザイン、コストのバランスを保持しながら細心の注意を払いコーディネートしています。
動線分離
エントランス正面にエレベーターを配置しています。お見舞い等の来院者をスムーズに上階の「病棟」や「泉の里」へ誘導することで、混雑する1階外来部門との明確な動線分離を図っています。2階病棟と1階を結ぶ医療専用エレベーターを設置することで、入院患者の手術および検査用の動線を確保して外来部門と明確に分離しています。管理、医局部門は1階の北側中央に配置して各部門との動線を最短とし、かつ連携のとりやすい構成としています。
2階:病棟
急性期病棟と回復リハビリ病棟で構成されています。各病棟のデイルームはエントランス上部の吹抜けを介して互いの雰囲気を感じることができ、同時にプライバシーを保てる関係性を形成しました。回復リハ病棟には屋外リハビリや廊下を利用したリハを想定した休憩ベンチを設置するなど充実した病棟内リハ環境を確保し離床を促進する機能を有しています。
3階:介護老人保健施設「泉の里」
「いちょう」「かえで」と名付けられた各10床のユニットと、28床の従来型老健「さくら」で構成されています。今回の建替えにあたりユニット型短期生活介護「クローバー」を10室増設して、新たな事業拡張とともに地域への貢献を目指しています。このフロアでも陽当たりのよい屋上散策庭園を設け、ベンチでの語らいや園芸を促す計画を試みています。
人口透析センター
4床病室
中庭