設計主旨
さかい利晶の杜は、堺市が観光拠点として企画した、公共施設、民間施設、駐車場の施設群です。公共施設は千利休屋敷跡に面する東側に位置し、敷地は南北に伸びます。施設構成は観光案内展示、千利休、与謝野晶子展示、茶の湯体験施設からなります。千利休唯一の遺構、国宝妙喜庵待庵の創建時の姿を「さかい待庵」として、茶庭に独立して復元しました。施設全体が「おもてなし」の場の形成をはかるよう、広場や庭は「市中の山居」をテーマとしています。新しい「市中の山居」は賑わう場所であると同時に茶の湯を体験する場所であり、それぞれの場所に応じて動から静への緑の深まりを段階的につくっています。都市の日常から隔離されるよう敷地周囲を連続した緑でつつみました。この境界は中世の環濠都市堺に因んだ「緑の環濠」です。北側主道路(フェニックス通り)に面するフロントコートゾーンは「緑の環濠」よって境界づけられた動的な「市中の山居」で、民間施設との間の緑道や千利休屋敷跡側のアプローチである中庭は歩みを進める頭上を樹の枝が覆い、緑陰を身近に感じる静的な「市中の山居」を形成しています。茶室や待庵を包む茶庭で、最も深い山里の風景としての「市中の山居」を体感できます。
建築は北側メインアプローチに面して観光案内展示室、中央に利休展示と茶の湯体験ゾーンを配し、南端に収蔵庫などの管理ゾーンを置いた3つのブロックで構成しています。堺は歴史ある都市ですが、「もののはじまり何でも堺」という進取の気風をもちます。伝統的な「イエ」型や土壁と現代的なガラスの外壁が同じ場所にあることが、堺の歴史性と進取性をあらわしています。観光案内展示ゾーンは全面ガラスのダブルスキンとして、内部の様子を外部に滲み出させて賑わいを作り出します。ガラスの外壁沿いに這わせた階段は昇り降りしながら外の風景を楽しむ装置です。1階の利休展示、2階の晶子展示・企画展示ゾーンに到る1,2階吹抜けのコンコースは外の緑を内部に取り込む全面力一テンウォールとしていますが、西日の展示室への侵入を防ぐためルーバー状のフィンを外部に設置しました。収蔵庫は2重壁の間を空調して恒温恒湿を保ち、その外壁は土壁に石をランダムに塗り込めて、蔵を守る壁の強さを表情に与えています。
聞き書き「さかい利晶の杜」の茶室
さかい利晶の杜には8畳の広間が3室あります。本格的な茶事ができるように鞘の間を設けています。広間とは別に設けた4畳半の小間は、北野大茶会時に利休が作った4畳半の写しです。別棟で建てられた「さかい待庵」は利休作で唯一現存する妙喜庵待庵の創建当時の姿を復元したものです。文献を元に妙喜庵待庵の床の巾を広げ、それに伴って天井の形を変えたのは今回の工夫で、床柱を桐としたのも「さかい待庵」の特徴です。利休の時代の茶室としては、4畳半と2畳の2種類の小間を備えていることが一般的で、2畳はカジュアルで、4畳半が厳格な様式なのです。「さかい利晶の杜」の茶室は全体的におおらかな雰囲気に出来上がったことがよかったと思っています。
「さかい待庵」の構造-耐震性能を評価する-
「さかい待庵」は妙喜庵待庵の創建当初の姿を復元するものであるから、筋かいや金物を用いない仕口で柱、梁は結合され、基礎も礎石上に柱を直接載せる「石場建ち」とした伝統的な木造軸組構法でつくられています。木造軸組は木材どうしのめり込みを前提とした仕口が基本となって発展してきた日本独自の構法です。めり込みを考慮した架構の粘り強い性質を正当に評価するために、限界耐力計算法を採用しました。限界耐力計算によれば、変形性能や減衰性能を評価に取り入れることが可能となります。木造軸組の土壁、小壁、方杖などの各耐震要素は、実験モデルの結果を今回の構造架構寸法に対応するよう補正して復元力特性を設定しています。柱脚は「石場建ち」によって基礎と緊結しないことが、柱に大きな応力を負担させず、軸組全体で水平力に抵抗することになっています。結果として、待庵を構成する部材による架構が耐震性能上安全であることが確認できました。
「さかい利晶の杜」の環境への配慮
クール・ヒートチューブ
一般外気取入れ温度及び、クール・ヒートチューブの出口温度を比較・制御し、外気を導入します。
ダブルスキン
ダブルスキン内の温度及び外気温度を比較し、夏期は高温になったダブルスキン内の空気を屋外へ排出、冬期は暖められた空気を室内に導入します。
※雨天時は制御しません。
自然通風
室内温度及び外気温度を比較し、モーターダンパー・スインドウの開閉制御を行い外気を導入します。(夏期・中間期のみ)※雨天時は制御しません。
循環ファン制御
天井付近温度により、夏期は高温になった空気を排出、冬期は暖められた空気を室内に導入します。
西面(北西)縦型ルーバー
夏至時の日射遮蔽 約47%