富山県広域消防防災センター・消防学校・四季防災館
防災、安心・安全、地域開放、ローコスト

施設について

東立面図
東立面図
施設は高さ45mの主訓練塔や、水深10m可動床付の水難救助訓練施設、実火による訓練施設、 瓦礫救助訓練施設など全国トップクラスの訓練機能を有します。 加えて災害時の指揮命令拠点機能、食料・生活必需品の備蓄機能、救援物資の輸送・集積拠点機能を備えた、 県民の安心・安全を守る防災拠点施設となっています。 東日本大震災が発生した時は、既に設計は完了し工事の半ばでありましたが、 設計段階での緻密なインプットにより設計内容を見直しすることも無く、2011年4月に開館となりました。 施設は手前から、四季防災館(学習施設)、消防学校、宿泊施設、屋内訓練施設、備蓄倉庫、実火災訓練施設、主訓練塔、水難救助訓練施設、 補助訓練棟、街区訓練場の順に並び、分棟化された各施設を屋外のピロティ空間「アクティブモール」により繋ぎ一体的な構成としています。
配置計画は、不整形な敷地の奥行きを逆に利用し、 そこに必要ボリュームを上手く嵌め込み、施設正面側の壁面線を揃えることで、 200m×100mの屋外スペースを確保しました。エントランス空間には施設の顔となる四季防災館と消防学校を配し、 アクティブモールにより一体的に繋いでいます。オープンに設えたエントランス空間や芝生スタンドからは施設全体が見渡せ、 訪れる人々に訓練や活動の様子を伝え映します。 かたちづくりのテーマは4つ、①スピード感のある形態、②開かれた施設、③防災の視認化、④繋ぐ・補完・可変です。ファサードの構成要素としては、 消防隊のスピード感ある動きをランダムな壁面構成により表現しました。また、日常生活の設えと防災の備え、 さらに、環境要素を融合し、これらの機能を視認化したデザインとしています。
配置図
配置図

四季防災館・消防学校

体験型の四季防災館は、自主防災組織や子どもから高齢者まで、広く県民に開かれた防災学習の場です。 四季ごとの災害をテーマに地震や暴風雨、流水、火災、雪崩などの本物の体験から、消防の歴史、富山の自然災害、高齢者が自分自身を守るための訓練などもできます。
消防学校は、光庭を囲む内部の回遊動線「インナーループ」を中心に、管理室、各教室、防災諸室、ワークテラスなどが並びます。 諸室の構成は、開き・繋ぎ・可変し・補完することで、学校機能から一般開放時、さらには災害時に至るまで、 最小限の設えでありながら最大限の機能性を発揮できるフレキシブルな空間となっています。

防災拠点施設としての役割を担う本施設は、耐震化、インフラの2ルート化、停電時の機能性確保など、 従来の整備に加え、飲料できる地下式耐震性貯水槽100tの設置、主要室の床免震化、災害対策活動室への災害用情報コンセントの設置、 防災デッキによる機能性の向上、災害時の使用方法を当初から想定するなど、瞬時の初動体制がとれる機能を備えています。
四季防災館
四季防災館
環境配慮としては地窓と高窓、風の塔によるドラフト換気、アクティブモールや庇、縦ルーバーによる日射制御、 光庭とワークテラスによる自然採光、反射率の高い色彩採用などシステムに頼らないパッシブな取り組みを多く採用しています。 訓練で使用する水は雨水やプール排水を優先的に利用し、放水訓練で放水した水も回収し再利用できるように配慮しています。

宿泊施設・屋内訓練施設・実火災訓練施設

宿泊施設は消防学校と一体となって日常時・災害時共に機能連携がとれる構成となっています。 宿泊室は4人部屋が15室、女性隊員のための専用室、ユーティリティースペースも完備しました。 また、宿泊室には可動ブースを導入し、集団空間から個別空間へと可変させることであらゆる集団単位に柔軟な変化をみせます。
屋内訓練施設は80m×25mの柱無空間とし、放水訓練、渡過訓練、ヘリコプター降下訓練など、室内でも実践的な訓練が行えます。 災害時にはこの大きなスペースを利用して備蓄倉庫からの物資搬出入、支援物資等集積スペースとして活用できます。
実火災訓練施設は22.5m×22.5m×高さ15mの吹き抜け空間を持ち、移動式の模擬家屋や油タンクなどを使い、実火による実践的な消火救助訓練が行えます。 さらに、隣接する主訓練塔と一体となった複合的な訓練が展開できます。
屋内訓練施設
屋内訓練施設
実火災訓練施設
実火災訓練施設

主訓練塔・水難救助訓練棟・補助訓練棟

主訓練塔は地下1階、地上13階、高さ45mの実践的且つ高度な訓練機能を内包した多機能訓練タワーです。 地下室での水没訓練、実火による消火救助訓練、濃煙熱気発生装置による消火救助訓練、地上30m部分での渡過訓練など様々な訓練が行えます。 水難救助訓練施設は、直径6m×水深10mの電動可動床、気泡による模擬濁水発生装置を持つステンレスプールを備えます。 水中スピーカー、監視カメラ、水中照明により監視室からの遠隔監視も可能となっています。
補助訓練棟A・B・C棟は全国技術大会仕様を満たす本格的な訓練施設として整備しました。 A棟は構造フレームを使い諸室を組み込み、C棟は地上32mまで立ち上げ第二の訓練タワーとして機能を付加しています。

各訓練施設に導入された排煙処理装置、泡消火排水処理設備、濃煙熱気発生設備などはオリジナルのシステム構築により大幅なコストダウンを図り、 ローコスト・ハイグレードを実現しています。 屋外施設としては、街区訓練場、水防訓練施設、瓦礫救助訓練施設、放水訓練場、ヘリポートなどがあり、 訓練設備が災害時の機能へと繋がる配慮を行っています。
水難救助訓練棟
水難救助訓練棟
主訓練棟
主訓練棟

ローコスト・ハイグレードの実現

大震災や津波、近年増えつつあるゲリラ豪雨や異常気象、高度な対応を迫られるNBC災害など、 消防に求められる事象は火災や救急にとどまらず多岐に渡ってきています。 その結果、消防訓練設備も高度かつ多岐に渡り、施設整備に大きな負担となっています。 富山県広域消防防災センターでは、設計当初からコストコントロールを行い、 ローコスト・ハイグレードをコンセプトのひとつに掲げ実践してきました。
開放されている芝生広場
開放されている芝生広場
ローコストでありながら様々な機能を併せ持つ
ローコストでありながら様々な機能を併せ持つ

ひとつの機能が複数の機能につながる施設整備

消防学校機能・災害拠点機能・防災啓発機能を可変、補完することで、ひとつの機能が複数の機能につながる施設整備を行っています。 具体的には図書室や会議室の一般開放、教室などの兼用利用や大小可変する設え、 センター長室・職員室が災害時にはそのまま司令室へと変わる機能維持の設え、 防災上の工夫が訓練機能へとつながる仕組みなど、沢山の工夫を行っています。
様々な災害を四季で捉え学ぶことができる
様々な災害を四季で捉え学ぶことができる
四季防災館でのレクチャーの様子
四季防災館でのレクチャーの様子

既製品や汎用品を活用しながらオリジナルのシステムを構築

専門性の高い訓練設備は、一般的には自動制御のあるシステムが構築され、 施設全体のコストアップにつながっています。そこで、弊社の持つ技術を結集し、大がかりなシステムに頼らない、 既製品や汎用品を活用しながらオリジナルのシステム構築を行い大幅なコストダウンに成功しています。 さらに汎用品を利用することは、維持管理費も低減できることからLCCの面でも大きく貢献しています。
可動模擬家屋
可動模擬家屋
排煙処理装置
排煙処理装置

オリジナリティをつくりながらもコストダウンを実現

施設全体の構成やデザインにおいても、棟ごとや階層ごとに違う構造形式や訓練機能をそのまま表出したコラージュデザインとすることで 装飾的要素を排除して、オリジナリティをつくりながらもコストダウンを実現しています。 また、導入する設備や材料については、設計段階での費用対効果シミュレーションを徹底的に行い、効果の高いもののみを採用し無駄を排除しています。

これらの取り組みは設計者のみでは実現できませんが、発注者と建築+構造+設備設計チームの連携が取れてこその成果であると捉えることができます。
レイアウト変更ができる主訓練塔模擬窓
レイアウト変更ができる主訓練塔模擬窓
昇降式ステンレス潜水プール
昇降式ステンレス潜水プール
設計者顔写真
高木 耕一(設計室長)

担当者コメント

開かれた施設
消防学校は、消防士を育てる学校と一般的に考えられていることが多いと思いますが、 富山県広域消防防災センターは少し違う視点を持ちつくられました。 まず、県の防災センター機能、消防学校、体験型学習施設の3つの機能を合わせ持つこと、 次に、地域に対して閉ざされた消防学校が多くみられる中、開かれた形態となっていること、 さらに訪れる人々に防災レクチャーやバックガイドツアーを行うなど、広く啓発活動を行っていることがあげられます。 施設を訪れると、子どもから大人まで本当に多くの人で賑わいを見せています。 これは、これからの公共施設づくりの姿として、「開かれたかたち」と「サービスの提供」を考えた結果で、 いわゆる公共施設の「商業化」を目指したからです。施設をただ開くだけでは機能しませんが、 迎える側の意識を変えること、今までの公共施設整備の固定観念を少し変えてみることにありました。

また、設計段階からハード(建物)とソフト(活動・しくみ)を一緒に考えた成果でもあり、 管理者・設計者の意図や想いが、かたちに現れた結果とも捉えることができます。 訓練の様子も当然ながら常にオープンな状況にあり、 臨場感と緊張感のある消防訓練を間近で体感したら、見る側の防災意識や自助・共助に対する考え方が変わると考えています。 また、見られる側にも公助への責任感がより醸成されるなど、 相乗的な「見る」、「見られる」関係性が生まれ成果となって表れると考えています。 このプロジェクトは、計画から設計、施工まで、本当に多くの方と議論を繰り返し、検討を重ねてきました。 施設のあり方や訓練のあり方、防災のあり方など、まさに叡智の結集です。 さあ、みなさんも是非、足を運んで体感してみてください。