子供たちを迎え入れ、包み込む保育園

長久手町立色金保育園

設計コンセプト

開放的な保育室、そよ風の通るプレイコート、伸びやかな大屋根など、子供たちがゆったりと時が流れる中で自由に遊び回り、行動し、豊かに成長できる保育園づくりをめざしました。芝生の築山や屋上に掛けられたブリッジ、随所につくられたデン、大きな軒など、遊びのエリアを規定しない空間づくりと心地よい居場所づくりを、子供たちの視点に立って考えました。大きな軒と園庭を囲むように広がる建物は子供たちを迎え入れ、包み込むような安心感をつくり出しています。

受賞

【2006】愛知県 第11回人にやさしい街づくり賞
【2008】第16回愛知まちなみ建築賞

建物概要

発注者 長久手町
所在地 愛知県愛知郡長久手町大字岩作字中島
用 途 保育所
構造・階数 鉄骨造 / 鉄筋コンクリート造・2F
延床面積 1,809 ㎡
竣工年 2004年
備 考 撮影:(株)SS名古屋
第16回愛知まちなみ建築賞は、「長久手町青少年児童センター・長久手町立色金保育園」としての受賞。
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ロケーション

長久手町は名古屋市の東に憐接する緑豊かな「歴史と文化」のまちです。1584年の「小牧・長久手の戦い」に始まり、2005年は「愛・地球博」の開催地として盛り上がりをみせました。町は環境保全や街づくりに対する施策を数多く実施し、基幹整備を進めながら良好な環境づくりに力を注き「古戦場のまち」から「住みたくなるまち」へと変わりました。敷地は町のほぼ真ん中、旧来からの集落に位置しています。道を挟み南面には香流川の流れがあり、川沿いには僅かながらも田畑と竹林が残る。周辺は住宅に囲まれつつあるものの、どことなく長閑で伸びやかな場所です。今後もこの風景はそれほど変わることはありません。
全景

「地域みんなで安心子育て」をテーマとして

少子高齢化、核家族化が進み、子どもたちを取り巻く環境もますます複雑化し、急速に変化してきています。近年の法改正や、幼保一元化の推進等により「保育に欠ける」子どもたちだけでなく、その親たち、「保育に欠けない」親子に対してもさまざまなフォローを保育園が中心となって行っていく必要が生じてきました。特に長久手町は、若い世代の多い街であって、時代の流れとして地縁的な関係で子どもの面倒をみるような関係は生まれず、希薄な人間関係の中で子育てに悩む家庭が多いのが現実と思われます。
このことから新しい保育園では、単に子どもを預かるだけではなく、親たちの相談や交流の場であったり、保育の情報発信の場であったり、さまざまな要求に応えられることが必要不可欠であると考え、これからの保育園として、地域に開かれた「街の家」づくりを提案しました。さらに、保育園は子どもたちが生活する場であると同時に町が設置する公共施設でもあり、機能性はもとより、地球環境・社会環境への配慮、安全性への配慮、コスト縮減など、公共施設としてのきめ細かな配慮も行いながら、これからの公共施設として、優しく健全な「杜の家」づくりも同時に試みました。
木製建具を開放し2室を1室として運営している様子

地域で誇れる保育園

緑豊かな長久手の風景にライトグリーンに輝く大きな楕円ボールト屋根は、シンボリックでありながら香流川沿いの伸びやかな環境と呼応し、遠くに望む公共施設群と香流川と共に豊かな景観を形成しています。南側に大きく開いた配置、大きな軒と園庭を囲むように広がる建物は、子どもたちや地域の人々を迎え入れ、包み込むような安心感をつくり出し、子ともたちの笑顔や歓声で溢れています。計画から完成に至るまで、行政・保育士・保護者の方々とコンセンサスをとりながら進められた豊かな保育園づくりが、今後も連鎖的に繋がり、ものづくりが人づくりに、さらには、人づくりが街づくりに繋がればと思っています。
大きな軒とソーラーフィン

これからの保育園として

新しい形の保育園
従来の保育機能のみならず、乳児保育・一時保育・延長保育事業の展開や、子育て相談・子育て支援の拠点としての役割を担い、多様なニーズに応えることのできる、地域の人々が気軽に利用できる新しい形の保育園です。

地域に開かれた保育園
保育園はさまざまな場面で多様な使い方が求められます。そのため本来の機能との間で無理なく開放できるゾーニングを考えました。地域との接点には、子育て相談室や職員室、園庭などを設け、子どもたちや職員の活動の様子が見える形態として、地域の施設として共に歩むことのできる保育園つくりを行いました。
居場所づくり
無限の可能性を持った子どもたちが、ゆっくりと時が流れる中で自由に遊び回り、行動し、豊かに成長できる保育園づくりをめざしました。屋上に掛けられたブリッジ・築山・デン・中間領域など、遊びのエリアを規定しない自由な空間づくりと心地よい居場所づくりを子どもたちの 視点に立って考えました。

可変する保育室
子どもの数は、毎年変わるばかりではなく、時間帯・曜日によっても変化します。保育室は木製建具や移動家具により2室を1室、3室を2室、さらには屋外空間をも取り込みながら可変し、合同保育や縦割り保育などの弾力的な運営も視野に入れて機能性を高められるように配慮しています。
事業の拡充
Sl手法の導入、多用途に利用できるプレイルーム・ワンルームの設置、可変する保育室の仕組みなど、特別保育事業の拡充・保育サービスの柔軟性などに応えられるだけのフレキシヒリティを持つ保育園として警備してます。

これからの公共施設として

健康な建物
木材・紙クロス・土などの自然素材を多用しながら、接着剤から仕上材にいたるまでの全てにF☆☆☆☆材料や可塑剤を含まない健康な材料を採用しています。建物完成後は、約1力月間のVOC揮発期間を設けたのち、全居室において空気環境測定を実施して、厚生労働省の指針に基づき基準値以下であることを確認しました。

ユニバーサルデザイン
車椅子対応エレベーター・多目的トイレの設置や段差の解消など、訪れる人たちの障害のあるなしに関わらず、幼児からお年寄りまで同じように使えるように配慮をしています。さらに、子育て相談室や授乳室・ベビーキープなどを設置し、子育てバリアフリー化にも同時に取り組んでいます。

安心・安全
仕上材にはフローリング・コルク・衝撃を吸収できるウッドデッキシステム・木材など、柔らかな素材を選択し転倒時・衝突時の安全性を確保しています。遊び方の全く違う未満児と幼児は接点を設けながらフロアによりゾーニングし、子どもたちへの配慮はもちろんのこと保育士にとっても使いやすい保育園としています。
太陽光利用
PC柱の間にトラスを組み、10kWの太陽電池モジュールを設置してます。遮光フィンとして直遮光をカットし、僅かに透過した光と 反射した柔らかな光を開放廊下・保育室に取り入れている、ほか、開放廊下の雨よけとしても機能し、目に見える形での設置を試みました。


雨水利用
大屋根に降る年間約1000m³の雨水を、基礎躯体を利用した地下ピットに集水し、濾過・薬注処理を行い、加圧給水によりトイレの洗浄水や横木への散水、打ち水に利用しています。地下ピットには最大200m³の雨水が貯留でき、年間約50万円の水道使用料金が削減できます。
風の利用
卓越風向の利用や地窓と高窓の設定によるドラフト操気など、風の流れと窓配置に配慮してフレッシュな空気を絶えず保育室へ取り入れ、呼吸する建物を実現しています。また、建物は適度に分節され、風の道を確保し、建物や街に風を通す配慮を行っています。屋外に設置した塔時計も風の力により発電し時を刻んでいます。


屋上緑化
耐病性のある高麗芝を中心として、洋芝、落葉高木・常緑低木を植樹し、子どもたちが実際に土に触れて遊び、耕やして畑にもできるように自然土壌を選択しています。屋上緑化は熱負荷の軽減、蒸散効果、植物による情操効果もあり、建設残土を利用した築山も含め多様な遊び場として活用しています。