子どもたちの成長に寄り添う施設一体型小中一貫校の実現

ピックアップ

敦賀市立角鹿小中学校

設計コンセプト

古くから陸海の交通の要衝として栄え、日本海の敦賀湾に面し、緑豊かな山々も連なる風光明媚なまち、敦賀。敷地は越前国一宮の氣比神宮に隣接し、まちの玄関口に位置しながら、周辺には低層の住宅が建ち並びます。令和 3 年度に開校した角鹿小中学校は、敦賀北小学校・赤崎小学校及び咸新小学校と角鹿中学校を統合した福井県初の公立小中一貫校です。
設計者と行政だけではなく、地域住民や教職員、児童生徒といった利用者とワークショップを重ね、この地区の学校がどのようにあるべきか、小中一貫校の利点を生かした計画とはどのようなものかを検討し、「ソフト(教育)」と「ハード(建築)」の両面から考えた敦賀市ならではの「施設一体型の小中一貫校」の実現を目指しました。
施設一体型の小中一貫校を具現化するためのポイントとして、①9年間の成長段階に合わせた学習/生活環境づくり、②児童生徒の日常的な交流を促す空間づくり、③小中を横断した施設運営のしやすい施設づくり、を大切にしました。

建物概要

発注者 敦賀市
所在地 福井県敦賀市
用 途 小学校 / 中学校
構造・階数 鉄筋コンクリート造一部鉄骨造・3F
延床面積 7,720㎡
竣工年 2021年
備 考 設計JV:東畑建築事務所・エイコー技術コンサルタント設計共同体
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施設整備部会による設計WSの風景
教職員等によるトイレの土壁施工WS風景
児童によるトイレのモザイクタイル施工WS風景

風光明媚な敦賀のまちに相応しい伸びやかでシンプルな小中一貫校舎

グラウンドの広さや日当たりを考慮し、校舎棟は現在の角鹿中学校グラウンド北側にコンパクトに配置しました。メインアリーナ棟は既存中学校体育館に大規模改修を行った上で継続して使用し、その北側にサブアリーナ棟、放課後児童クラブ棟を計画しました。校舎棟と各棟を半屋外の渡り廊下で接続し、各施設の連携を強めました。
児童生徒の主要なアプローチは、以前と変わらず敷地西側の正門からとしました。アプローチ空間には、スクールバスの待合や駐輪場を兼ねた正門棟を整備し、積極的に緑化を図ることで、道路向いの氣比神宮とつながる計画としています。
校舎棟の外観デザインは、敦賀の港からはじまる広大な海の水平線をイメージした水平基調のデザインとしており、子どもたちの活動の背景となる伸びやかでシンプルな表情をつくり出すことを目指しました。
建物南側を見る_水平基調のファサードデザイン

コンパクトさがもたらす豊かで機能的な「8の字型平面ゾーニング」

一日で最も長い時間使用する普通教室の採光と通風に配慮し、快適な学習環境/生活環境をつくることが大切だと考えます。普通教室ゾーンを2 学年で1 つのまとまりと考え、建物南側両端に計画しています。教室のまとまりごとに、アメニティスペース(トイレ、手洗い)や教材庫を設け、日常の使い勝手を高めます。交流/ 共有ゾーンを中心に据え、2 本の東西廊下と中庭を介して特別教室ゾーンと繋がるコンパクトな平面計画とします。南北のゾーン間には中庭を挿入し、採光・通風に配慮します。見通しがよく、死角をつくらないため、教職員の目が行き届きやすい計画となっています。また、行き止まりがなく、回遊性があるため、活動が途切れることなく広がり、校内全体が有機的につながります。
      8の字型平面ゾーニング
中庭によりゾーン毎に良好な環境をつくりながらプライバシーも確保
音楽室_合唱用の段床を備え吸音と響きのバランスに配慮した設え

活動に合わせて選択できる「集団学習スペース」の充実

空間の大小、テーブル/ イスのあるなし、設置場所などの違いを持たせた多様な集団学習スペースを設けることで、学年全体や複数学年合同での学習活動など、活動に合わせてスペースを選択することができます。
学びの拠点となるメディアセンターは動線の要となる1 階中央に配置し、小中一体化により、本を介した児童生徒の日常的な交流や、小中相互の図書利用ができるメリットを活かします。学内のICT 環境を充実させ、校内のどこからでも情報が収受できる環境をつくります。角鹿ホールは、床が階段状になっておりプロジェクターや音響装置を備えた発表用途に対応したスペースです。木の芽ホールは、フラットな広い床での制作作業や軽運動をすることができ、多目的に使用することができます。
ふらっと気軽に立ち寄れ本に親しめるメディアセンター、中央には敦賀湾の形状をモチーフにした絵本架
壁面ホワイトボードとキャスター付き机&椅子を備えたアクティブラーニングスペース
教科学習でも利用できるオープンな角鹿ホール
異学年交流ができる2学年収容可能な木の芽ホール

児童生徒の成長段階に合わせた学習・生活スペース

学校生活の拠点となる普通教室廻りのスペースについて、適切な設えの違いをつくり、9 年間の長い学校生活に変化を与え、成長段階を演出します。普通教室ゾーンの中央に配置した特別支援教室については、将来児童数が減少した際に、学年ごとのオープンスペースや、普通教室と連携した通級学級、更衣/ 教材スペースに転用するなど、学年ごとの学びを充実させます。
交流や出会いを促す生活の場づくりとして、小中間を超えた交流、異なる学年間の交流を促進する交流&共有の場を校内に点在させます。アメニティスペース近くのカウンタースペースや中庭のテラスは、幅広い人間関係づくりの機会をつくります。3本の南北廊下は、動線に回遊性をもたせるとともに多様な移動経路の選択肢を用意し、交流の自由度を確保します。
手洗いスペースを含めた内包型ワークスペースを持つ小学校低学年教室
習熟度別学習や個別指導等に活用できるワークルームを持つ中学生教室
隣と掲示兼用建具で仕切った小学校中高学年の拡張型ワークスペースは急な学年集会等に活用可
校内にはベンチやカウンターを点在、トイレ前のちょっとした談笑スポット
学年を超えた交流や出会いを促す階段テラス

教職員への負担を減らす職場環境づくり

小中一貫校となることで多忙化する教職員の職場環境を充実させます。職員室は、1 階に配置し、グラウンドに向けて窓を設け、視認性が高く見守りやすい計画としました。
小中の教員同士の連携を図りやすくするため、小中職員室は領域をゆるやかに分け一体化させました。中央には管理職系の島をつくり、小中の連携を更に深めやすくします。共有する印刷室やリフレッシュスペースも中央に配置し、印刷作業や休憩だけでなく、2,3 人で立ち話しながらコミュニケーションが図れる設えとなっています。メディアセンターとも近く、児童生徒が先生に質問しやすい距離感となっています。
小中教職員の日常的な連携がしやすい一体となった
職員室
点在する閲覧テーブルは教職員の簡易な打合せ
スペース

機能性にも配慮した小中一貫校ならではの内装木デザイン

床・壁・建具・家具については、脱炭素社会の実現に向け、極力福井県産材を用いた内装木質化を図り、木のあたたかみに包まれた学習・生活環境をつくります。木の空間は児童生徒の疲労症状や教職員の蓄積的疲労を緩和し、香りがよい/ 落ち着く/ 気分がよいといった情緒的な安定を与えます。
小中一貫校では、9年間同じ校舎で学び生活することになるため、発達段階に合わせて内装に変化をつけました。学校生活で最も長い時間を過ごす普通教室ゾーンの教室と廊下の腰壁に用いた杉板の色味を変化させ、学年のまとまりが意識できるよう、学年があがる毎に成長を感じられるような配慮をしています。
屋上や中庭に設けたハイサイドライトから室内に光を取り入れ、その光が拡散し室内全体を明るくするよう、仕上材の反射率を考慮し、木の仕上げ面と白系の仕上げ面のバランスに配慮した計画としました。
小学校低学年トイレ_敦賀まつりの花火大会ととうろう流しをモチーフにしたデザイン
中学校トイレ_統合3小学校の土と気比の松原の砂によりつくられた土壁デザイン
中学生エリアはウォルナット系の落ち着いた色合いの木仕上げに
成長段階に合わせて腰壁や建具の木部の色味を変化させる色彩計画
小学校中学年トイレ_敦賀湾の海のきらめきをタイルで表現したデザイン
家紋と松をモチーフにした視認性のよい教室サイン
防火戸サインは設計上の工夫を説明する学習サイン

児童生徒にとっても地球にとっても優しい環境づくり

日射を遮蔽するライトシェルフでファサードの水平性をさらに強める

敦賀の恵まれた自然環境を有効に活用し、夏涼しく、冬暖かな学習・生活環境をつくることは子どもたちの成長に寄り添う校舎づくりの根幹となります。照明のLED化や節水型衛生機器の採用など、校舎を省エネ化することはもちろん、外壁・屋根・開口部の高断熱化、中庭や風の塔によるドラフト効果を利用した通風促進、ライトシェルフによる日射遮蔽や拡散光の採り込みなどパッシブな手法を中心とした環境配慮技術を採用しました。校舎を教材とした環境教育につながるような工夫を設えることは、将来的に児童生徒の環境配慮に対する意識を育むことに繋がります。
風の塔の頂部にあるバランス式排気窓