風景や居場所に応答する柔らかな屋根

ピックアップ

香美市立図書館 かみーる

設計コンセプト

四国山脈を抜け、車窓からの視界が一気に広がると、一枚の紙を折り込んだような有機的な曲線が現れます。既存施設の移転に伴い、雄大な山並みや田園風景に調和する屋根と、その下に様々な居場所が展開する、地域に開かれた図書館を目指しました。6つの円弧に沿って折り曲げられた谷のない屋根は、スチールと香美市産木材によるハイブリッド構造で支えられています。形態は内部にも現れて、見通しよい空間にゆるやかな領域性を与え、広さや高さの異なる多様な居場所を生み出しています。木トラス、書架・家具、ルーバー、建具や床(TOKYO2020リユース材)など、目に映る全ての木部を市産材で調達し、木の香るまち香美市の新しいシンボルを実現しました。

受賞

【2023】 2023年照明施設賞
【2023】 第57回日本サインデザイン賞
(四国地区デザイン賞)
【2023】 日本建築学会作品選集  入選
【2023】 ウッドデザイン賞2023(入選)
【2023】 第21回高知県木の文化賞
(木造建築物及び木造建造物の部)
【2023】 令和5年度木材利用優良施設等コンクール
(木材利用推進中央協議会会長賞)
【2023】 第8回高知県建築文化賞(優秀賞)

建物概要

発注者 香美市
所在地 高知県香美市
用 途 図書館
構造・階数 鉄筋コンクリート造 一部 鉄骨造及び木造・1F
延床面積 1,653㎡
竣工年 2022年
備 考 設計JV:依光建築設計事務所
← 実績一覧へ戻る

風景を楽しめる『居心地の良い閲覧スペース』

平面ダイアグラム

地域に親しまれる図書館には、気軽に訪れて思い思いに過ごすことができる多様な居場所があります。北東の山並みやアンパンマン列車の風景を楽しめる、おしゃべり可能な閲覧室では、子どもも大人も分け隔てなく自分のスタイルで過ごすことができます。閲覧室の中には、静かに過ごしたり、グループで集まったりできる個室を散りばめ、地域の木に包まれた多様な居場所が、高さや広がりが変化する屋根の下に有機的に連なるように計画しています。
アンパンマン列車を楽しめる児童閲覧スペース
(左から)窓を眺めて過ごせるカウンター席、落ち着いて過ごせる静寂読書室、書架に囲われた集中スペース、グループで学習できるテーブル席

地域の木が支える『見通しの良いワンルーム』

木梁とハイブリッド梁の接合部

閲覧室に緩やかな領域性を与える表裏一体の屋根架構。円弧梁と木トラスは、見通しの良いワンルームを成立させる重要な構造体です。
鉄骨梁を円に沿って掛け渡し、円同士をトラス構造で結ぶことで、柱の少ない空間を実現しました。奥行と高さが変化する有機的な軒は、正円を傾けた単純な片流れを組合せ、先端を別の円で切り抜くことで形成。円の両端を固める耐震壁付ラーメン架構(RC 造)を様々な向きに配置して建物全体をバランスさせ、屋根への負担を軽減して架構をスリム化しています。木トラスには、県内加工が可能な香美市産スギ集成材を2 枚合せで用い、豪雨に耐える谷のない滑らかな多面体とすることで、複雑な屋根を気候風土に寄り添う形態へと導いています。
鉄骨円形梁と木梁の接合部

木トラスのスパンが大きい箇所に採用したハイブリッド梁は、間に挟んだスチールが、鉄骨建て方を安定させる役割も担っています。
鉄骨と木の接合詳細
木トラス取付時の様子
木トラス断面詳細

『ALL 市産材・県内加工』で、地域の木資源を最大限活用する

地域の木に包まれた大らかなワンルーム
木材加工スキーム
市域の8割以上を森林が占める香美市は、林業は盛んですが、加工場が少ないことが計画上の課題でした。
設計初期段階で森林組合へヒアリングを行い、供給可能な木材量を最大限活用した上で、隣接市で加工可能な種別・部材寸法を選択する方針としています。豊富なスギを構造材(集成材)や内装材(製材)に、ヒノキを建具・家具類(集成材)に使い分け、目に映る全ての木部を香美市産材+県内加工で実現しました。
(左から)様々な角度・長さで取合うスギ構造用集成材トラス、スギ製材の下見板張、スチールと組み合わせたヒノキ集成材の書架
香美市産材を高知県が加工したTOKYO2020 ビレッジプラザのCLT 床版を小上がりや建具、ベンチに利活用する取組みも行っています。
(左から)CLT利活用ベンチ、CLT利活用小上がり、ビレッジプラザ(高知県HPより)

屋根架構に寄り添い『浮遊する光』

特注サスペンション方式 詳細図

木トラスに沿ってライン型器具をランダムに配置し、架構を際立たせました。意匠性と安全性を両立する特注のサスペンション方式を採用し、浮遊感を保ちながら、全てに耐震補強用の振留めを設けています。円弧内側は、ライティングダクトを木ルーバーに並行配置し、スポットライトとタブレット式無線調光システムを採用して、環境や運用に合せて、場所に応じた明るさを提供できるようにしています。
屋根架構に寄り添い浮遊する光

熱負荷・日射に最適な軒形状

方位ごとの年間当たり冷暖房熱負荷シミュレーションを行い、最適な軒出を検討しました。季節・方位・時間ごとの日射シミュレーションを並行して行い、直射日光が書架に当たらないよう各部の軒を微調整することで、面ごとに軒出や高さが微妙に変化するアンジュレーションのある軒形状としています。
冷暖房熱負荷シミュレーション
読書環境に適した軒の出1.5m程度の東面
深い庇と壁面主体の西面

ワンルームを効率よく快適に保つ居住域空調

滞在型の図書館においては、長時間の快適性維持が重要です。高効率な居住域空調とし、窓や座席が多いペリメーターは床吹出方式、高天井で外部の影響を受けにくいインテリアは壁吹出方式を採用し、熱流体シミュレーションにより温度ムラが小さいことを確認しました。また、室外機は眺望を阻害しない分散配置とすることで、配管ロスも抑えています。
ぺりメーターとインテリアの空調方式
床吹出・壁吹出方式を併用した閲覧室
熱流体シミュレーション