実学を実践するアカデミックな場の創出

ピックアップ

多摩大学25周年記念 T-Studio

設計者のコメント

T-Studio竣工式の当日、多摩大学は創立25周年を迎えT-Studio完成と共に更なる展望へチャレンジする新しい一歩を踏み出しました。
この次代の多摩大学に寄せる期待感に包まれた船出に立ち会えたことがこの設計を通して一番うれしかった瞬間です。
設計から監理に至るまで、鋼板によるセミモノコック構造と精度の要求される逃げの許されないディテールの検討で本当に苦労しました。
しかし、大学生や、中高生の笑顔でT-Studioを思い思いに活用してくれている姿を見ると設計者としてとても嬉しく、そんな苦労も忘れさせてくれます。
T-Studioが大学施設として利用されるだけでなく、多摩地域の次代のシンボルとして、地域社会のネットワークと連携し、大学と地域を繋げる次代のアカデミックな場の拠点として成長して行くことを楽しみにしています。

建物概要

発注者 学校法人田村学園
所在地 東京都多摩市
用 途 大学
構造・階数 鉄骨造・2F
延床面積 527㎡
竣工年 2014年
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設計コンセプト

多摩大学【多摩キャンパス】は、多摩ニュータウンの住宅地と丘陵地に囲まれたキャンパスです。キャンパス内に一歩足を踏み入れると、そこは成熟した緑に囲まれ、学業に没頭するのに十分魅力的な空間が広がりを見せています。その一方で駅前の開発から距離を置いたキャンパスであるため、学生街と呼ばれるような社会とのつながりを生む周辺環境が身近になく、キャンパス内においても学生や教職員が日常的に交流し、互いの経験や知識、意見の交換を積極的に行える場所がないため、活動(クラスター)の受け皿としての場を求める声が多く聞かれていました。
多摩大学は、産業社会において問題解決の最前線に立つ志人材(人物)を育てるために、社会とのつながりを積極的に取り入れ、地域社会で活躍する有識者を交えたマーケテイング・文章・図解・ICT・会計・言語などのさまざまな手法を駆使する最先端の問題解決学の実践を主とする実学を展開しています。
 こうした二つの背景を受け、キャンパス内に学生や教職員をはじめ、地域の方々や実社会で活躍する有識者が活動(クラスター)を行える場・情報の共有を行える場・実学を実践し発信できる場を公共性の高いアカデミックな場(空間)として実現することを多摩大 学25周年記念事業にふさわしいテーマとして、新棟【T-Studio】の計画を進めることになりました。
メインアプローチよりT-Studioを望む

キャンパス動線の交差点

敷地は、正門をくぐりスロープを上りきった広場の一角、正門から既存校舎へのメインアプローチに沿った場所に選定されました。ここは、アプローチ・広場・既存校舎のJUNCTION≒キャンパス内のさまざまな動線の交差点というべき場所に位置しています。学生たちが日々憩い、活動するアプローチと広場の交差点を新たに建物として置き換える際に、正門と既存校舎をつなぐ軸線をより意識させ増幅されるように【T-Studio】の一部をピロティ化しました。
【T-Studio】を、既存校舎と広場に面して計画することで、既存校舎や広場の活動を受け入れ、相互に新たな関係性を築くことのできるよう計画しました。

三角形のかたち

アプローチ・広場・既存校舎それぞれに関係性をもたせるためにプランの検討を重ねた結果、三方向に対して正面性をもつ三角形の特徴的な建物の外形が生まれました。三角形の平面プランをフレキシブルな建築として成立させ、三角形がもつ幾何学的な形状を活かす為に、各辺に周辺環境と呼応する開口を設け、それ以外の壁面については目地のないソリッドな面に仕上げることで、三角形がもつ鋭利で抽象的な表現を追求しました。シームレスでソリッドな彫塑的な表現を成立させるために,構造体として鋼板を用いた構造形式を採用しました。
1階平面図
2階平面図

開放的で軽快な空間とソリッドな表現の両立

平面計画は至ってシンプルで、建物の一部をリズミカルな列柱によるアプローチ空間と鋼板耐震壁に囲まれたフロアを2層積み上げました。1階は学生や教職員が自由に出入りでき、自然と交流が生まれるような気軽に立ち寄れる多目的スペースとしました。
2階はよりアカデミックな実学を実践し、多摩地方を中心とした地域社会に発信していく拠点としての【CREATIVE COMMONS】を計画しました。さまざまな活動(クラスター)の受け皿となるようにフレキシブルな空間とし、柱などの構造体を極力消失させ、鋼板耐震壁に支えられた開放的でありながら、周辺環境をピクチャレスクに切り取るソリッドな空間を実現しました。
性格が異なる二つのフロア同士を、シリンダー状の鋼板耐震壁に囲まれた抽象的な階段によって緩やかにつないでいます。この鋼板耐震壁は外部と内部を緩やかにつなぎ、人々や周辺環境を緩やかに建物内に誘い込む役割も担っています。三角形の均一な空間に曲面のボリュームが入り込むことで、建物内外に動きのある空間を生み出しました。
上 / 1階 多目的スペース
下 / 様々な活動(クラスター)の受け皿となるCREATIVE COMMONS
CREATIVE COMMONSに向う人々の心を高揚させる

次代のシンボル

スロープを上りきると目の前に現れる【T-Studio】。
多摩大学【多摩キャンパス】の新しいアカデミックな活動(クラスター)の場が、実社会とつながり、さまざまなフィールドで躍動する次代の人材と価値観を育む場のシンボルとなることを望んでいます。
キャンパスの交差点に立つ【T-Studio】

構造体とディテール

鋼板による三角形・鋼板によるスカイライン・鋼板面の開口部

鋼板による三角形
三角形の平面形態をソリッドで緊張感をもつ鋭利な形態として実現するために、外壁に鋼板耐震壁を採用し目地のないシームレスな表情を目指しました。鋼板面同士を現場溶接にて一体化し、溶接部をパテ処理した後、現場にてフッ素樹脂塗装を行うことにより、厚さ9mmの鋼板耐震壁がもつ素材自体の魅力を活かしつつ、外壁面の雨仕舞の問題をクリアしました。
鋼板によるスカイライン
鋼板耐震壁とアスファルト防水との取合い部となるパラペットを、鋼板耐震壁に対し笠木の鋼板を現場溶接により一体化することで、水密性を確保すると同時にシャープなスカイラインを実現しました。
鋼板面の開口部
鋼板耐震壁と開口部の取合いについては、紙をカッターで切り抜いたような表現を目指しました。外壁側から開口部を見た際に、鋼板耐震壁厚9mmの小口の薄さを際立たせるために、サッシ枠を外壁面から後退させ、かつ外壁の背後に納めることで、鋼板耐震壁にガラスが直に納まっているような表現を実現しました。ペアガラスの採用などにより居住空間に求められる熱環境問題を同時にクリアしました。
外壁溶接、塗装モックアップ
パラペット
鉄鋼面の開口部

緩やかな階段

内部と外部に緩やかな関係性をもたせるために、曲面の鋼板耐震壁をピロティに沿って配置しました。
この曲面の外壁に囲まれたシームレスな空間の中に、ササラ(PL-6)壁により支えらえた階段を挿入することで、柔らかで緩やかな空間にシャープでミニマムな階段をつくることを実現しました。
6mm厚の鋼板により構成される階段
踊場より階段を望む

細くリズミカルな柱

正門から既存校舎までのアプローチ空間の一部を、ピロティ空間としました。
既存校舎のもつ重厚感あるRC柱によるピロティと対比させるために、鉛直荷重のみを負担したφ165の柱を採用することで、細くリズミカルな柱が並ぶ軽快なピロティとすることに成功しました。
上 / 緊張感のあるスカイラインと柔らかいシームレスな曲面の対比
下 / 既存校舎よりT-Studioを望む
リズミカルに柱が並ぶ軽快なピロティ