大垣北幼保園
認定こども園、幼保園、幼稚園、保育園

保育に欠ける子供たちから保育に欠けない子供たちへ、幼保一元化への動き

従来の保育所と幼稚園を一体的に考えようという「認定こども園」の制度が施行されたのは、平成18年(2006年)でした。 それ以前は、厚生労働省の所管する保育所と文部科学省の所管する幼稚園の2つの施設が就学前施設として存在していたのは周知の事実です。 日本の社会が高度成長を終え、少子高齢化が顕著になるにつれ、就学前の子供たちを取り巻く環境も大きく変わることになります。 核家族化等により母親へのストレスが増加し、保育に欠けない子供たちについても社会的親の必要性が論じられています。 具体的現象として幼稚園児の減少と保育所児童の増加(いわゆる待機児童として問題化されました)が起こったことです。 厚労省と文科省は協力して制度化を図ってきましたが、時代が自民党政権と民主党政権が2大政党として入れ替わりのあった時期のため、 呼称も含めて煩雑さが抜け切っていないのが現状です。
自民党政権下で幼保一元化として制度化が試みられ「幼保園」という呼称が登場しましたが、 法制化される前に民主党に政権が移りそこでは「こども園」という呼称が登場しました。 かくして、2006年に「認定こども園」が法制化され、実施に移されましたが、認定こども園の、 設置数は飛躍的に増加していません。今でも厚労省と文科省は当然、独立してあり、保育所も幼稚園も依然として存在するため、 保育園、幼稚園と共に、幼保園、こども園、さらにそれぞれ認可施設と認可外施設があり、 利用者側だけでなく運営者側からも分かりにくいシステムになっています。   そもそも保育所と幼稚園が生まれてきた社会的背景にはお互い大きな差があり、 就学前児童という言葉でひとくくりには、今でも扱いづらい所があるのも事実です。本当に一本化されるにはまだまだ時間が必要だと考えられます。
長久手町立色金保育園
長久手町立色金保育園

認定こども園とは、保育園?幼稚園?

保育所、幼稚園等の内、保育及び教育を一体的に提供し、地域における子育て支援を実施する機能を備えるものは、 都道府県知事から「認定こども園」として認定を受けることができます。 都道府県知事は、厚生労働大臣、文部科学大臣が定める指針を元に、条例を定めて認定します。 認定制度に係る財政措置、利用手続き等の特例措置が講ぜられます。
現在、改正認定こども園法に基づく、施設の一本化が図られており、平成27年4月に新たな幼保連携型認定こども園制度が施行される予定です。
文部科学省・厚生労働省 幼保連携推進室 ホームページより引用

認定こども園のタイプと機能

認定こども園の4つのタイプ
幼保連携型
認可幼稚園と認可保育所とが連携して一体的な運営を行うタイプ
幼稚園型
認可された幼稚園が保育所的な機能を備えたタイプ
保育所型
認可された保育所が幼稚園的な機能(幼児教育)を備えたタイプ
地方裁量型
認可の無い地域の教育・保育施設が認定こども園として機能を果たすタイプ
認定こども園の機能
・3歳児以上の子供は、担任による4時間程度の
   教育がある。(幼稚園的機能)
・保育時間は短時間(約4時間)から
   長時間(約8時間)まで選べるようになっている。
(保育園的機能)
・子育て相談や親子登園など地域子育て支援を
   週3日以上行っている。
大垣北幼保園
大垣北幼保園

最新施設、大垣北幼保園の紹介

今回の事例である大垣北幼保園は、前掲のこども園とはまた、違った制度の上に計画された幼保一体化施設です。
本園は認定こども園が設置される以前の平成16年(2004年)に大垣市が内閣府による構造改革特区として認定された、 「大垣市幼保一体化運営特区」計画により設置されたものです。

特区において活用できる特例措置
・幼稚園児及び保育所児等の合同活動
・幼稚園と保育所の保育室の共用化
・幼稚園の基準面積算定方法の弾力化
実際の運営は、幼稚園児と保育所児童が同じ保育室内(クラス)に所属し、活動を行うものであり、保育時間のみが違うこととなっています。
園庭
園庭

はぐくみの”わ”

本プロジェクトは老朽化した北保育園を改築するにあたり、隣接するかさぎ保育園、北幼稚園を統合し、新たに北幼保園として整備するものです。 施設づくりにあたって園児の「動きが“わ”」となるような行き止まりのない、回遊性のある空間づくりを目指しました。 園庭は建物に内包されるかたちで配置され、建物に沿って明確なセキュリティーゾーンを設定しています。
保育室は園庭に沿ってのびやかな曲線で結び付けられ、保育室と保育室のすきまの空間に吹抜を設け、 トップライトから光が降り注ぐプレイコーナーとして、活発な異年齢児の交流の場となることを目指しました。 2Fの保育室からは園庭につながる芝生のマウンド「ぼうけんの丘」を通って園庭にアクセスでき、 子ども達にとって楽しい空間をつくり出し、回遊性をさらに高めています。
また、自然通風・自然採光の活用、太陽光発電、ライトシェルフや照明のオールLED化による省エネ、水の豊富な大垣市の井水を使った中水利用と 屋根散水など環境配慮対策も積極的に行い、地球に優しい幼保園としています。
今後、この園で生活する園児たちに「動きの“わ”」による交流が生まれ、「ふれあいの“わ”」が広がり、 「思いやりの心」や「助け合いの心」が育まれて『はぐくみの”わ”』となっていくことを願っています。
吹抜け
吹抜け
左上/保育室 右上/遊戯室 左下/外観南 右下/全景
左上/保育室 右上/遊戯室 左下/外観南 右下/全景

就学前施設における私たちの設計手法

子供たちが主役であること

これらの施設は子供たちが初めて経験する集団生活、社会生活の場です。 就学前施設の場合、生活や遊びの中で学び取り、成長することが大切となります。 私たちは常に子供たちの目線で設計をすることを心掛けています。
明るい保育室
明るい保育室
運動会
運動会

行き過ぎた安全安心に注意する

一般的な公共施設において、安全安心というキーワードは唯一無二の合言葉のように様々な局面で要求されます。 まだ、何も知らない子供たちをそういう環境に押し込めてしまうことが果たして良いのかどうか自問自答しています。 危険を理解していない子供たちが理解しないまま育つとするとこれほど危険なことはないとも考えられます。 少なくとも空間の持つ危険性(高いところ、段差、etc)は学べる空間づくりが望ましいと考えています。


タラップの付いたデン タラップの付いたデン
上/築山階段 左下/建築化されたすべり台 右下/動かせる家具
上/築山階段 左下/建築化されたすべり台 右下/動かせる家具

クライアント(設置者)との意思疎通

保育所は公営が多く、幼稚園は私立が多いが、いずれも義務教育以前の施設のため、 設置者や運営による工夫が随所にみられるのもこの類の施設の大きな特徴です。 私たちはクライアントと十分な意思疎通を図り、施設の長所を伸ばし、 さらにオリジナリティあふれる魅力的な施設の設計を心掛けています。 何故なら、少子化、民営化、自由化時代を迎え、この種の施設も生き残りの時代に入っているからです。
セイムスケール
セイムスケール(それぞれの園の思いがつまった、それぞれの形)

気づきにくい職員への負担

入所施設である病院や老人施設の看護士や介護士に係る負担は良く知られていますが、 保育施設の保育士にとっても園は重労働環境であることは見逃され勝ちです。 未満児の生活の世話をはじめ、日常の施設のメンテから保育の準備まで殆どが保育士の肩に掛かっていると言っても過言ではありません。 また、理解力の発達していない小さな子供たちへのケアは想像以上にストレスの伴うことを理解し、設計を工夫する必要があります。
腰を屈めなくてよい汚物流し
腰を屈めなくてよい汚物流し
保育ゾーンと隔離された休憩室
保育ゾーンと隔離された休憩室
設計者顔写真
瓦田 伸幸(名古屋オフィス 代表 常務執行役員)

担当者コメント

保育所の設計を通して
私が初めて保育所の設計に関わったのは、今から約15年前の桑名市桑陽保育所まで遡ります。 プロポーザルにより当選したものです。以後、数件の保育所の設計に関わりましたが、いずれもプロポーザルにより受注したものです。 当時、保育所と幼稚園は全く違う施設として捕らえられていましたが、少子化傾向が顕著になり、 「保育に欠ける子供」だけでなく、「保育に欠けない子供」たちの子育て問題が表面化してきた時期であり、 子育て支援センターが制度化された時期でもありました。桑陽保育所においても子育て支援センターが併設されています。 最新施設である大垣北幼保園までわずか15年で制度も変化し、これからは幼保一元化の施設が主流になっていくと思われます。 具体的な設計については、使い手が、0歳児から5歳児までと体格変化の大きい施設であり、管理する保育士さん等、 大人との体格も全く違うことから、保育士さんや、保護者の方々との協議を経ながら子供に関していろいろ教えてもらいながら 試行錯誤を繰り返しました。

それらの経験をもとに本文中に記述しています、「設計手法」的な我々なりのルールが出来てきたわけです。 就学前施設は、官民問わずそれぞれの施設により、様々な特徴があり、 それはその地域の伝統であったり、園長先生の方針であったりします。 子供たちにとって大切なこととして作り出されたものですので、それぞれの手法が正解であり、私たちはそれぞれをさらに発展させ、 その施設に相応しいより楽しい、より豊かな空間を提供するべく努力をしています。 子供たちが生まれて初めて経験する社会生活の場として、人格形成の取っ掛かりの場として、 未来の日本を支えてくれる子供たちの成長の場として、魅力的な施設を創り続けたいと考えています。 通常、施設は大きくても3,000㎡前後であり、1,500㎡を越えればこのジャンルでは大型施設に入ります。 私たち、東畑建築事務所は小さくても輝く施設を創りたいと考えています。それもまた、組織事務所の大切な責務だと考えています。