環境学習型エコスクールの実現(豊田市立土橋小学校エコ改修での取組み)
土橋小学校ではエコ改修に伴い、日射遮蔽ルーバーや躯体の断熱化を図り、校舎への省エネ器具や太陽光パネルなどの設置を導入しました(ハード整備)。
これらの「ハードの整備」によるCO2削減量をシミュレーションにより算定し、設計時試算として-16%と想定しました。
改修工事終了後おどろいたことに、1年間のエネルギー消費量を計測すると、
実績値は設計時の想定を大きく上回る約60%のCO2削減となっていました(設計時試算よりさらに約50%の削減)。
主なハード整備
想定以上のCO2排出量削減のひみつ
児童・教職員のエコ意識向上
どんなにエネルギー効率の良い建物であっても、利用者の使い方次第ではその効果が十分に発揮されません。
土橋小学校では、ハード整備の効果を最大限に活かすべく、環境教育や適切な校舎の運用を継続させるための
しくみづくり(「ソフト整備」)に特に配慮して計画を進めました。
その甲斐あって、児童・教職員のエコ意識が向上し、校舎を賢く使いこなしてエネルギーの無駄遣いを抑え、大幅なCO2削減が実現しました。
ソフト整備の取組み
基本設計・実施設計時
普段の学習に活用できる校舎に(教職員+設計者ワークショップ)
教職員とのワークショップ
私たちは、普段の生活から校舎にエコのしくみを取入れる場合、子どもたちがそれを見たり感じたりできる工夫を行います。
その工夫をどう学習に活かすかを使い手となる教職員と一緒に考えることで、学習に有効活用できる工夫を設計時点で把握することができます。
土橋小学校では、現職教育の時間をつかって全教職員に集まってもらい、何年生の児童が、どこで、何の授業で、
どのような学習ができるかを具体的に話し合いながら計画を進めました。
ここで得られた成果を設計に取入れられただけでなく、校舎を活用した環境教育に教職員が意欲的に取組む姿勢が生まれました。
エコ改修工事中
試行錯誤でやってみる!(校舎のエコの工夫を体感学習)
エコな校舎に行ってQ
改修工事が完了し、新しくなった校舎とまだ工事が行われていない既存の校舎を巡り、
温熱環境や光環境を比較する体感学習を行いました。
子どもたちは温度計などを使って数値でその違いを比べるとともに、エコのしくみを目で見て、
手で触れ、明るさや暑さ、涼しさの感覚を比べ、体感を通して学びを深めました。
この日は保護者のみなさんにもこの様子を参観してもらい、エコ改修と環境教育の取組を知ってもらいました。
風のやぐらのしくみを学ぼう
2本のペットボトルの上下に、窓に見立てた穴を開け、キャップを閉めたものを改修前校舎、
開けたものを改修後校舎(風のやぐら)とし、線香の煙を使って、両者の空気の流れ方の違いを観察する学習を行いました。
このように、校舎を活用した環境学習を工事年度に試験的に行い、竣工後に実践予定の環境教育プログラムを改善しながら進めていきました。
つなげる工夫①(子どもエコガイド)
土橋小学校では、6年間を通した環境教育の取組みと共に、言語活動や各教科学習を横断した教育の成果として、
「子どもエコガイド」の育成を掲げています。
これは児童が、校舎に施されたエコの仕組みや魅力を来校者等に伝える活動で、
この活動を通して継続的に校舎の適切な運用や校舎への愛着が伝承されていくことが期待されます。
子どもエコガイドの取組みは、大人から与えられた情報をそのまま話すのではなく、
「自分の言葉・方法で伝える、答える」という点を大切にし、児童自らエコの仕組みや原理を探求・理解することを目標にしています。
つなげる工夫② 教科を横断した環境教育(年間学習計画の作成)
土橋小学校では環境学習を総合的な学習の時間に限定するのではなく、理科、社会、家庭科など様々な教科を横断して学習できるよう、
右図のような年間学習計画を作りました。
また、それぞれの授業での「ねらい」、「準備物」、「学習の視点」などをまとめた「環境教育プログラム」を整理し、
環境教育を継続しやすいしくみを作りました。
竣工後
ここからが本番!(環境教育の実践・継続・発展)
上/渡り廊下にグリーンカーテンを設置できるフック
下/霧吹きを使って植物の蒸散と涼しさの関係を学ぶ
なぜグリーンカーテンがあると涼しいかを探求する(15回授業)
6年生 どうすれば暖かい空間を作れる?エコブリッジを暖めよう
暖かい場所、寒い場所を体感から色分けし、寒くなりやすい場所を見える化して学習
渡り廊下を様々な素材で覆い、温度計の数値や体感から暖かい空間を作る断熱のしくみや日射について学ぶ授業1
渡り廊下を様々な素材で覆い、温度計の数値や体感から暖かい空間を作る断熱のしくみや日射について学ぶ授業2
教職員研修 窓際OFFは分かる?適切な照明運用を考える
窓際は自然光によって十分に明るいため、晴天時は窓際の照明をOFFにしても気づきません。
この体験を通し、自然光の状態に合わせ、必要な照明だけを点灯する賢い使い方を学びます。
真のサスティナブルスクールを実現
ここで取上げたのは土橋小学校で行われてきた校舎を活用した環境学習のほんの一部です。
私たちは、計画に関わり始めた基本設計段階から継続して、児童、教職員とともに校舎を活用した環境教育に取組んできました。
その中で、児童や教職員は校舎に施されたエコのしくみや適切な運用方法を体感を通して学び、竣工後の省エネ行動につながっています。
さらに、この取組を継続させるための仕組みづくりも教職員と協動で行ってきたことで、この活動が一過性のものではなく、
長期的に続けていきやすい環境を整備することができました。
新築、改修に関わらず、ハード整備と合わせて環境教育や継続性のあるしくみづくりといったソフト整備を行うことで、
永く環境に配慮した運用を続けていける真のサスティナブルスクールを実現することができるのではないかと考えています。
担当者コメント
どうすれば自然のエネルギーをうまく活用した、環境に配慮した校舎はうまく使いこなしてもらえるのだろうか?
先生たち、子どもたちに工夫の使い方を理解してもらうには?
先生が転勤しても、子どもたちが卒業しても、使い方がうまく引き継がれていくにはどうしたらいいの?
そんな問いに答えるべく挑戦したエコ改修プロジェクトでした。
何も難しいことはありません。それは昔、田舎のおじいちゃんおばあちゃん家であたりまえに実践されていた使い方です。
そう、賢く暮らす「あたりまえの知恵」。
家に風を通したきゃ入り口と出口をしっかりつくる、熱がこもってきたなら天窓をあける、
日差しがきつけりゃよしずをたてる。
こどもたちが普段の授業で、校舎を教材にして体感しながら学ぶことで自然に備わる知恵。
つくり手のプロである設計者とつかい手のプロである先生とが力を合わせて考えた学習プログラムを実践します。
こどもたちはエコガイドを通してそれを来校者に伝えるために「事象を捉え、原理を学ぶ」。
学んだ知恵は家庭に還元され、学校から家庭へ、家庭から地域へとエコの輪が広がりました。